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「忖度による服従はするな」歴史に学ぶ、暴政から身を守る術

思考を放棄してはいけない

まるで日本人のための書物

首相が野党の弱り目を狙って解散を打ち、野心にかられた都知事は新党を立ち上げた。自民党の「選挙の顔」と持ち上げられる小泉進次郎は、「小池さん、出てきてください」と笑みを浮かべて語ったが、選挙にかかる費用をこの人たちは、一体どう理解しているのだろう。

前任者の金の不祥事で都知事選を行ったのは、つい去年のことではないか。

暴政 20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』は気鋭の歴史家、ティモシー・スナイダー博士の最新刊である。東ヨーロッパ史、ホロコースト史を専門とする博士が、トランプ政権下のアメリカ国民に向けて緊急出版した本だが、「日本人に向けて書かれたのだろうか」と目を見開かされた。

全20項目からなり1項目ごとに警句が提示され、示唆とエピソードに富んだ解説が続くが、最初に登場する警句はなんと、「忖度による服従はするな」。博士はその危険性を、こう説明している。

「個人は予め、より抑圧的になるだろう政府が何を望むようになるかを忖度し、頼まれもしないのに身を献げるものです。このようにして適応しようとする市民は、権力に対して、権力にどんなことが可能かを教えてしまう」

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全編を通じるメッセージは、「思考を放棄してはいけない」という懸命な訴えである。テレビやインターネットから離れて本を読み、調査されたジャーナリズムに接し、自らの頭と心で真実を見極めることの大切さ。

ひとりひとりが考える市民になることが暴政に対する唯一の対抗策であるという。

 

博士はまた、「権力者は非常時を常に好機と捉えて利用する」と警鐘を鳴らす。権力者がテロの脅威を強調し、人々の不安感を煽る時が来たら、それは「ファシズム前夜」である、と。

本書は新書判ほどの薄い本であるが、内容は深く重い。2月の発売以来、世界中で40以上の言語に訳されているというのも納得がいく。

アーレントが受けた批判

『全体主義の起源』、『エルサレムのアイヒマン』といった著作で知られる政治哲学者ハンナ・アーレントが世界的に再評価されているのも、おそらくは同じ理由からであろう。

著作のみならず、彼女の生き方にも関心が高まっているが、矢野久美子『ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』は、そうした私たちの期待に的確に応えてくれる一冊。彼女の数奇な運命と、著作が生み出された背景を描き出している。

20世紀の初頭、ドイツにユダヤ人として生まれたアーレント。父を梅毒で失い、裕福なユダヤ人商人の祖父に引き取られ、詩や文学に親しみ、自然とギリシャ語を習得したという早熟な少女は、14歳で早くも哲学に傾倒する。

新進の哲学者ハイデガーに憧れ、彼が教鞭を取るマールブルク大学に進学するが、この学問の師と彼女は不倫関係に陥ってしまう。やむなく転学し、さらにはナチスの手を逃れて、フランス、アメリカへと亡命。時に家政婦として働きながら英語力を磨き、大学教授の地位を異国に得ていくのだった。