日本の子育ては地獄か…ホストがたどり着いたスマートな「正解」

なぜこの問題は解決しないのか?
藤田 祥平 プロフィール

地獄はかんたんにできあがる

荒唐無稽と思われた本書が意外な説得力を持っているのは、瀬理奈のような状況にある人々が、現実の日本に多く存在しているからだ。

あきらかに喫緊の問題であるにもかかわらず、子育てを支援する制度どころか、シングルマザーを支援する制度さえも、日本ではほとんど整備されていない。

ここに旧家族的な価値観――「子供は血縁者の手によってのみ育てられるべき」――が組み合わされれば、とてもかんたんに地獄ができあがる。

制度の面からも、また倫理の面からも、現状の日本の子育てをめぐる環境には、変更が必要だ。この件に関して神威と孔明は、作中のなかでじつにスマートな正解を導き出す。

「愛なしで子供を育てることができたら、それは世間でいう薄っぺらな愛情より素晴らしいものになるのかな」

孔明は目を擦りながら言った。

「それはたぶん愛と見分けがつかない」

フィクションによって現実に切れ目を入れるこの手法は、作者の円熟味を表すと同時に、現代日本の子育てをめぐる環境への、重要な意見であると言えるだろう。

 

しかし書評子としては、連作中編として同書に収録されている、神威のもとに預けられた赤ん坊の6歳を描く「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」にこそ、作家の真髄が表れていると断言したい。

同中編では、「《KIDS-FIRE.COM》」の成功によって変革を余儀なくされた日本社会と、それによって生まれた新たな社会問題までもが提示されるからだ。

ここにきて読者は、本書が語るテーマが子育てをめぐるものだけでなく、すべての世代を巻き込んだ重層的なものであることに気づくだろう。