『東京プリズン』の作家・赤坂真理さんが、文学者として日本の近現代史を読み直し、いまを生きる私たちの「盲点」を鋭くつく連載第4回。今回は「トランプ現象」を駆動した物語とは何だったのか、ある日本人男性がもらしたトランプへの「共感」を手掛かりに解き明かします。
〔→連載第1回はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52922)
「ドナルド・トランプを文学にたとえると?」
アメリカ文学研究者の巽孝之氏に会う機会があり、思わずこんな問いを発した。
この問いに対する、巽の答えほど、トランプが大統領になれたわけとして、納得できたものはなかった。
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ドナルド・トランプがなぜ、アメリカの大統領になれたか、わたしにはわからずにいた。
知的な説明をいくつか聞いてきた。どれももっともではある。が、どれも、どこかが弱かった。
よくあるのは、アメリカの「プア・ホワイト(貧乏白人)」を代弁した、というもの。
たしかにプア・ホワイトは手付かずの(≒ケアされていない)票のマーケットだと、トランプは目をつけたには、違いないとは思う。
その勘、マーケティング戦略、広告代理店のような宣伝方法は、巧みなものだと思う。
しかし、「わたしはあなた達の代弁者です、味方です」と言われて、その言葉を当のプア・ホワイトたちが、本当に信じたものだろうか!?
トランプは億万長者で、叩き上げですらなく、恵まれた遺産相続人の立場から富豪になったのである。
そういう人に、階層や出自のぜんぜんちがうプア・ホワイトたちが、本当に熱狂するものだろうか?
トランプの宣伝戦略は、たしかにうまかったのだろう。選挙資金も潤沢である。
しかし、本当に?
人々の側を、駆動した本当の物語は、他にあるのではないだろうか?
言語を超えたところで、トランプに見た何かの理想が、あったのではないだろうか?
それがリンカーンのようでなかったとしても。
いつしかわたしはそう考えるようになった。もっと深い層に、何かあると思った。