悲惨な「東名高速死亡事故」似た経験をした犯罪心理のプロが思うこと

彼に施すべき「治療」は何か?
原田 隆之 プロフィール

「再犯」を防ぐためにできること

では、この被疑者に対して、社会はどのように対処していけばよいのだろうか。

先にも述べたように、さまざまな刑罰が科せられる可能性があるが、それは捜査の進展と裁判の経過にかかっている。もちろん無罪の可能性もある。

したがって、一時の感情から冷静さを失った吊し上げや攻撃をすることは差し控えるように、私自身の自戒も含めて、今一度考え直すべきだろう。

もちろん、行った行為に見合った罰を与えることは、当然のことである。刑罰には応報の側面があることは事実である。

その一方で、いたずらな厳罰化は犯罪を抑制しないこともまた、エビデンスが示している。確かに、厳しい罰を与えることによって、被害者感情に少しは報いることはできるかもしれないし、一時的にわれわれの溜飲も下がるだろう。

しかし、重要な点は、厳罰化には再犯抑止効果はないという事実である。

なぜ厳罰化は再犯を抑制しないのか、それにはいくつか理由がある。

 

厳しい罰を受けると、被疑者は一時的には反省するかもしれないが、「逆ギレ」をするような人物であれば、社会への恨みや憎しみを募らせるだけに終わる可能性が大きい。

さらに、犯罪者特有の認知傾向として、時間展望のスパンが非常に短く、今現在のことにしか目を向けることができないという特徴がある。「今楽しければいい」とか、「腹が立ったから、後先考えず暴力を振るう」などの行動は、そのような極端な現在指向的時間展望の現れである。

このような近視眼的な人物は、自分の行動がどのような結果を招くか、そしてどのような刑罰が待ち構えているかなどということを考えられないのである。

そして何より、罰を与えたとしても、セントラル・エイトが改善されない限り、再犯のリスクは残ったままである。刑務所から出れば、また同じようなことをする危険がそのまま残っている。

事実、毎年犯罪が減少しているわが国の刑事司法の現場で、今一番問題になっていることは、再犯者率の高さである。

ここから、何をすべきかが見えてくる。刑罰の重要性を否定するつもりはまったくないが、それに加えて、「セントラル・エイト」に焦点を当てた「治療」が必要だということだ。

具体的には、自己中心性を抑えて共感性を育てる共感性訓練、怒りや攻撃性のコントロール、暴力に頼らないで自己主張したり問題解決したりするためのスキル訓練、周囲の人間と円滑な関係を維持するための対人スキル、敵意を抱きやすい認知傾向の修正、法や社会に対するゆがんだ認知の修正など、行うべき「治療」はたくさんある。

そして、近年の犯罪心理学や臨床心理学は、こうした治療方法も格段に進歩し、効果を上げている。

治療効果のエビデンスとしては、最も権威のある犯罪心理学の教科書として世界中で読まれている前述のアンドリュースとボンタの『犯罪行動の心理学』では、適切な治療によって再犯率が約10〜30%低下することが紹介されている。

あわせて、残された子どもたちや遺族に対するケアも、臨床心理学の知見を活用すべきであることは言うまでもない。どんな事件にも、加害者のあるところ、必ず被害者がいるわけであるから、その両者の手当を疎かにしてはならない。

今回のように、われわれの怒りを刺激しやすい事件が起きると、感情的な反発が渦巻くことは仕方ないことである。しかし、一時の感情に身を任せて、加害者に石を投げ続けるならば、その石はこちらにも跳ね返ってくるということを自覚すべきであろう。