誰も気づかなかった「日本人がクリスマスに馬鹿騒ぎするのはなぜか」

サンタという異物と、いかに戦うか
堀井 憲一郎 プロフィール

資本主義のアイコンへ

20世紀の世界戦争で本土を荒らされずにすべて勝ったのは、唯一アメリカ合衆国だけである。アメリカだけが世界戦争二連勝、ほぼ無傷の全勝優勝である。その圧倒的勝利の国の文化が世界を席巻した。クリスマスは、教会の手から離れ、サンタクロースの手中に収められていくことになった。

現在のクリスマス祝祭には、さまざまな書物で指摘されている“古代の冬至の祭り”という側面とはべつに、近代資本主義の祝祭、という面がある。贈与の祭りが、資本主義と共振し、いまの異様な賑わいをもたらしている。

クリスマスの過剰な祝祭化は「資本主義の本質的な問題」と大きくつながっている。アメリカ的な(そして日本的でもある)クリスマスは、遅れてきた資本主義国ならではの祝祭である。中世的権威を無視している。それが世界で受け入れられている。資本主義国であるかぎりは、宗教とは関係なく、クリスマスを祝わなければならないのだ。

サンタクロースは資本主義的クリスマスのアイコンである。

キリスト教にとってサンタクロースは異端なのだろうが、はために見ているぶんには、クリスマスの存在そのものがキリスト教にとっての異物に見える。

日本人ならではの知恵

愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか』は「日本におけるクリスマス祝祭の歴史」を追った本である。

1549年のキリスト教伝来以来の“降誕祭”の様子を細かく辿っていく。

日本のクリスマスの歴史、という言葉を使うと、よくこう聞かれる。

「え。日本のクリスマスってそんな昔からあったんですか」

数人いれば必ず誰かがこういう疑問を抱く。この言葉に「日本におけるキリスト教とクリスマスの位置」が象徴されている。

 

キリスト教は1549年に伝来し、1639年の鎖国令によって完全に追放された。明治になってキリスト教は再び渡来し、そのまま何となく日本にある。

ざっくりしたみんなの知識はそのあたりだろう。日本国内のごく一部のキリスト教信者か(人口の1%と言われている)、日本キリスト教史などを調べる研究者以外は、いまの日本のキリスト教についてはほとんど知らない。いや、知らないというレベルではない。きれいに無視している。みごとに無関心である。

誰も、キリスト教徒がいるなら日本でも降誕祭はあっただろう、という想像をしない。自分が生まれる前から日本にクリスマスがあったとは、誰一人考えもしない。

日本は、異物としてのクリスマスに目をつけたのだ。

クリスマスを盛大に祝うことは、キリスト教から逸脱していくことになる。だから、積極的に祝いだした。キリスト教と敵対せず、しかしキリスト教に従属しない方策として、クリスマスだけ派手に祝うことにしたのだ

“クリスマスの馬鹿騒ぎ”は明治時代から始まった。対米英戦争による中断をはさみ、そのまま21世紀につながっている。

日露戦争よりあとなら、どの時代の日本人も、すべてみな“クリスマスの想い出”を語ることができる。20世紀の日本にはいつでもクリスマスがあった。

しかし、その歴史を通して語った日本人はいない。いたとしても見つけられない。

キリスト教徒ではない日本人が、キリスト降誕祭(クリスマス)に大騒ぎをするのは、日本人ならではの知恵なのだ。その経緯を細かく説明していく。

「恋人たちのクリスマス」のルーツ

そもそも、日本ではここ数十年、クリスマスは恋人たちの日である、とされている。まったくその意味がわからないのだが、ただ、それがキリスト教から大きく逸脱していることだけはわかる。そのルーツを探った。

それも、明治からの馬鹿騒ぎの流れの末にある、と見ていい。

恋人たちのクリスマスのルーツは、日露戦争の勝利にあるのだ

日本人が、圧倒的な西洋文化を前にしたときに取る態度を、クリスマス受容の歴史に見いだすことができる。本書では、西洋社会と接するようになった16世紀以降の、日本の文化のある側面を見ていくことになる。

キリスト教を背景にした西洋文明は、自分たちと同じルールで動く社会しか認めようとしない。そして自分たちが善であることは疑うことのない前提となっている。あきらかに狂信的な暴力集団であり、立ち向かうと善意によって滅ぼされる。

キリスト教は、信じないものにとっては、ずっと暴力であった。そういう厄介なものはどう取り扱えばいいのか。それは日本のクリスマスに答えがある。

「日本のクリスマス騒ぎ」は、力で押してくるキリスト教文化の侵入を、相手を怒らせずにどうやって防ぎ、どのように押し返していくか、という日本人ならではの知恵だったのではないか。だからこそ「恋人たちのクリスマス」という逸脱にたどりついたのである。

そういう日本のクリスマスの歴史を見ていきたい。

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