世界で5番目に臭い食べ物「くさや」は、かくして生まれた

発酵文化人類学的に読み解くと…
萱原 正嗣 プロフィール

日本の発酵食品にも、この「世界の臭い食べ物ランキング」第5位に挙げられているものがある。伊豆諸島の新島でつくられる「くさや」だ。アオムロやアジ、トビウオなどの夏に獲れる青魚を、「くさや液」という発酵液に浸して天日干ししたものである。

『発酵文化人類学』によれば、「くさや」が生まれたのは、島にとって貴重な「塩」を節約するためだという。海に囲まれた新島では、「塩」は簡単に入手できるのだが、そうであるがゆえに「塩」が税として厳しく取り立てられた。保存食をつくるのに必要な「塩」が十分に使えない以上、それを節約するしかない。

そこで島の誰かが思い付いたのが、「塩の漬け汁を捨てずに使い回す」方法だ。魚を漬けた汁は味も匂いもきつくなるため、一度使ったものは捨てるのが普通だが、「塩」が貴重なのだから仕方がない。こうして、強烈な匂いを放つ「くさや汁」が出来上がった。

ほかにも、日本のユニークな発酵食品として、「塩を使わない漬物」である長野県木曽町の「すんき」や、高知県北部の嶺北地方で飲まれる不思議な発酵茶「碁石茶」などがあるという。

生き延びる必要性に迫られて

しかしなぜ、世界と日本の各地で、このように多様な発酵食品が生まれるのか。

ヒラクさんが世界と日本を旅しながら抱いた疑問は、文化人類学の大家・レヴィ=ストロース(1908‐2009)が抱いた疑問と重なるものだった。

レヴィ=ストロースは、「世界中の神話を集めているうちに『なぜ世界各地でこんなにも多様で摩訶不思議なストーリーが生まれるのだろう?』という疑問を持った」という。

レヴィ=ストロースは、多様な神話(=文化)の型が生まれる理由を探り、「ブリコラージュ(器用仕事)」と呼ばれる文化人類学における重要な概念に辿り着いた。彼の「主著のひとつである『野生の思考』において、『神話は一種の知的なブリコラージュである』と定義」したのである。

「ブリコラージュ」とは、フランス語で「日曜大工とかDIYのこと」を指す。「『素人があれこれ工夫してモノを組み立てる』というニュアンス」だ。

 

神話が多様になるのは、神話が生まれる場所の「地域性」の多様さゆえだ。

「熱帯なのか雪国なのか、海なのか山なのか、湿っているのか乾いているのか。風土の違いによって、そこに生きる動物や植物が変わり、当然地形と植生が織りなす景色に多様性が生まれてくる」。

ヒラクさんは自著のなかでこう語っている。要するに、「その土地の風土の数だけ文化がある」のだ。

同じことが、発酵食品にもそのまま当てはまる。世界各地に多様な発酵文化があることは、神話を生む風土の多様性に由来する。

その土地に生きる人々が、「そこにあるもの」、「ありあわせの材料」で生き延びる必要性に迫られ、「ブリコラージュ」によって、そこにしかない発酵食文化を生み出してきた。

先に挙げたスウェーデンの「シュールストレミング」やエスキモーの「キビヤック」は、その土地にニシンやアザラシ、ウミツバメしか存在しなかったからこそ生まれてきた。

また、「くさや」や「すんき」は、本来なら発酵に必要な「塩」が欠乏・不足していたためにつくり出されたものなのである。