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「悪夢のような成年後見制度」役所を訴えた、ある娘の告白

成年後見制度の深い闇 第9回
長谷川 学 プロフィール

実は、精神鑑定を行うためには、専門医による鑑定が必要だと定められている。これには費用と手間がかかることもあり、結局、省略されがちなのである。問題なのは、一般の医療機関で勤務する非専門医が『後見相当』などと診断した場合でも、専門医から見ると『そんな必要はない』というケースが多いことだ。

成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」代表・宮内康二氏(元東京大学医学系研究科特任助教)はこう話す。

「そもそも、日本には認知症の専門家が極めて少なく、どの後見類型が適当かという判断が医師によって異なることが多いのです」

 

「後見類型」とは、後見される本人(被後見人)の認知症の症状が重いほうから、「後見」「保佐」「補助」と3種類に分けられる成年後見のあり方だ。被後見人に対する影響力がもっとも大きいのが「後見人」で、不動産の売買契約から日用品の購入まで、財産権の一切を管理する。

これに対して「保佐人」「補助人」は、比較的認知症の症状が軽い人につけられ、不動産売買のような、間違いがあっては困る重大な契約については、被後見人に代わって締結したり取り消したりできるが、日常的な買い物などには口出しできない。

つまり、医師が「後見相当」と判断するか、「保佐相当」「補助相当」と判断するかによって、結果は大きく変わってくるのだ。だが、認知症の専門医が少ない中、その大事な判断に「ゆらぎ」があると宮内氏は指摘し、こう続ける。

「後見診断の技術は確立されておらず、類型判断が医師によって異なることはしばしばです。

認知症判断の基準として一般的な「長谷川式スケールテスト」の点数を目安にする傾向も見られますが、長谷川式は財産管理能力をとくに測定するために作られたものではなく、後見診断には不適切という見方もあります。

ちなみに、長谷川式テストの質問には、野菜の数を記憶したりするものもありますが、こうした数の記憶能力と財産の管理能力に強い相関があることを示す科学的なデータもありません。

さらに問題なのは、自治体や後見人候補の弁護士が診断医に「(保佐や補助ではなく、より重い)後見類型にして下さい」と依頼するケースが多いことです。

後見類型にした方が本人の意思を無視できる、逆に言えば後見しやすいという供給サイドの思惑があるのです。そして、専門医による精神鑑定を飛ばしてしまう。こうして被後見人が、『政治的』に作り上げられることが少なくないのです」

家事事件手続法の「明らかにその必要がないと認めるとき」という文言が拡大解釈され、行政や後見事業を手掛ける弁護士らの都合で利用されて、本来、行われるべき精神鑑定がスキップされてしまう。そんな理不尽が、現在の成年後見制度の仕組みのなかでは、まかり通っている現状があるというのだ。

そして母娘は役所との法廷闘争に

実際、今回の桑名市のケースでも、津家裁は桑名市から医師の診断書の提出を受けただけで精神鑑定は行わず、後見開始の審判を下してしまった。その結果、それまでこの母娘とは何の縁もゆかりもなかった弁護士が「専門職後見人」として選任され、母親の財産権の一切を管理するようになった。

この審判に母娘は強く反発。長女の名前で、ただちに即時抗告訴訟を起こした。

後見開始の審判に対しては、審判の告知を受けた日から2週間以内なら、高等裁判所に即時抗告の訴えを起こすことができる(ただし、抗告の理由は「後見類型が適当でない」という点でしか認められず、「見も知らぬ弁護士が突然、後見人についたのは納得できない」という人事面の理由での抗告は認められていない)。

母親と同居してきた次女は、即時抗告した家族の思いを、こう語った。

「もともと母の認知症は軽度で、後見人をつける必要などないということが第一の理由ですが、もう一つ、成年後見制度のことを調べてみると、とんでもなく問題の多い制度だと分かって、このまま後見人がついていたら、取り返しのつかないことになるという危機感を持ちました」

成年後見制度に関する情報を集めた姉妹は、どんな点を問題だと感じたのだろうか。次女に列挙してもらった。

「たとえば、いったん弁護士後見人がついたら、母が死ぬまで後見人を辞めさせられず、その間、弁護士に報酬を取られつづけます。また、母の財産はすべて弁護士後見人が管理するので、本人と家族は後見人の許可なしにお金を使えない。

後見人が母を施設に入れてしまったら、これは本来なら違法なことだそうですが、施設と示し合わせて、家族と会わせないようにすることすら、実際に行われているという。これは大変だと思い、即時抗告を名古屋高裁に起こしたんです」