「ひき逃げには当たらない」
事故から約4か月後、名古屋地検へ出向いた遺族に対して副検事がおこなった不起訴理由の説明は、信じられないものだった。
「担当副検事は、『加害者には人だという認識がなかったのだから、この事故はひき逃げには当たらない』と言うのです。また、加害者の印象については”キャラクター”という言葉を何度も使い、『普通のサラリーマンでいかにも小心者みたいな顔なので、裁判官にボソボソボソ泣きながら、本当に知らなかったんですよと言われたら、(裁判官に)伝わっちゃう』とまで言われたのです」
この日、同席した遺族側の代理人弁護士は、
「加害者がたとえどんな印象であっても、その人がひき逃げをしたのは事実。裁判官はそんな印象で左右されてはいけない!」と、副検事に強く反論したが、副検事からは、さらに信じられない言葉が次々と飛び出した。
「『加害者は仕事で18時間も寝てなかったんだからかわいそうだ』とか、『酔っ払いが道で寝ていたから轢いてしまったと加害者が言えば、たとえ轢いたことが事実でも無罪になるんだ!』といった、全く意味が通らない理由を並べ立てられました。そもそも、父は道で寝ていたわけではないのです。
とにかく副検事から出る言葉はどれも加害者擁護で、立証が難しい事案にはかかわりたくない、そんな態度をありありと感じました」(鈴木さん)

鈴木さんら遺族はその後もたびたび警察や検察に出向き、不服申し立てをおこなった。
しかし、検察は2013年3月、再び不起訴を決定した。
被害者遺族の執念
ひき逃げ不起訴という検察の判断にどうしても納得できなかった鈴木さんは、ドライブレコーダーの映像などをもとに、名古屋第一検察審査会に対して、「不起訴不当の申し立て」を行っていた。
それを受けた検察審査会は、同年4月、「大きな衝突音や乗り上げた際の衝撃があったにもかかわらず、運転手が何もせず走り去ったことは理解の範囲を超えている」として不起訴不当の議決を下したのだ。
その結果を受けた検察は、「再起」(再び事件を掘り起こして新たに処分をすること)を決めたものの、2014年1月、またしても「ひき逃げの故意は認定できない」として3度目の不起訴を決めたのだった。
それでも鈴木さんはあきらめなかった。
ひき逃げが不起訴になった理由は、
「轢いたのは袋に入ったゴミか石だと思った……」
まさに加害者のこの供述にあった。
そこで、それを覆すために、自費で日本自動車研究所のテストコースを借り、ダミー人形を使った轢過実験を同型車で実施。人を轢いたときにドライバーはどのくらいの衝撃を感じるかを検証して記録し、最高検察庁に訴えることにしたのだ。
「実は、検察はこの事故の衝突再現実験を『むち打ちになるから』という理由で、時速10キロという低速度で行っていたのです。ドライブレコーダーの映像から、実際には時速50キロほど出ていたことはわかっているのですから、それではまったく実験の意味がありません」(鈴木さん)