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ミサイルより恐ろしい…北朝鮮「浸透工作員」とは何者なのか

私が出会った北朝鮮工作員たち 第1回
竹内 明 プロフィール

秘密道具から、戦争並みの重火器まで

工作員には、通信機器や偽造身分証明書の他に、必携の道具があったという。

「消音機付きの拳銃、手榴弾、そして毒銃器を持っていました。

この毒銃器はパーカーの万年筆の形をしていました。その中に毒が塗られた弾丸が1発だけ入っていて、2~3mの至近距離から発射して命中すれば、相手は毒が回って死にます。

万年筆の後ろの部分をまわして、ボタンを押すと発射される仕組みでした。誰にも知られずに人を殺すことができる。そんな道具です。

そしてもう一つ必ず落ち歩かねばならないのが、自殺用の毒薬アンプルです。ボールペンの先に青酸カリ入りのアンプルを仕込んでおいて、捕まりそうになったらそれを噛んで死ぬようにと言われていました」

まさにスパイの「七つ道具」といったところだが、北朝鮮工作員たちが扱うのは、こうした小型の秘密道具ばかりではない。

 

2001年、九州南西海沖で北朝鮮の工作船が海上保安庁に発見され、銃撃戦の末、沈没した事件があった。このときに工作員らが所持していた武器は以下のようなものだった。

5.45ミリ自動小銃(4丁)、7.62ミリ軽機関銃(2丁)、14.5ミリ2連装機銃(1丁)、ロケットランチャー(2丁)、82ミリ無反動砲(1丁)、携行型地対空ミサイル(2丁)。

工作員たちは戦争並みの重武装で日本近海にいて、躊躇いもなく海保の船を攻撃したのである。これらの武器を、彼らが日本国内に持ち込もうとしていたのかどうかは、明らかになっていない。

そもそも、工作員とは何者なのか

金元工作員の話を続ける前に、まず彼らがいったい何者なのか、概要をご説明しておこう。

北朝鮮では、すべての党、軍の諜報機関が「朝鮮人民軍偵察総局」という軍直下の諜報機関に再編成されている。

偵察総局は6つの局からなる。

1局(作戦局)は工作員の浸透、養成を担当。海州や南甫、元山などに会場からの浸透のための連絡所を運営。

2局(偵察局)は韓国への工作員派遣や軍事作戦を担当。

3局(海外情報局)は国外での諜報活動と破壊工作を担当。

5局(会談調整局)は韓国との交渉を工作、交渉技術を研究。

6局(技術局)はサイバーテロを担当。

7局(支援局)はすべての局の業務を支援している。

日本がもっとも警戒すべきは、工作員の浸透を支援する1局と、対日工作員が所属する3局だ。3局は、かつて日本人拉致などを行った朝鮮労働党情報調査部(35号室)の業務を引き継いでもいる。

偵察総局の工作員は、高級中学校を卒業した17歳以上の若者から選抜される。選抜と言っても志願ではなく、スカウトが基本だ。その人選の条件を金東植・元工作員はこう語った。

「大事なのは頭脳です。これは持って生まれた素質が大きく、鍛えようがない。次に肉体です。両方を兼ね備えてないと工作員にはなれません。次に出身成分(生まれのこと。親が党幹部であるかどうかなどが、子供の将来を大きく左右する)、その次が容貌です。

背が高すぎても、低すぎてもいけない。顔が不細工で嫌悪感を与えるようではダメですし、ハンサムすぎてもいけない。要するに平凡な見た目であることが必要です。

でも、現場に出てみて一番大事だと思ったのは、臨機応変な行動が取れることでした。いくら頭脳や肉体が優れていても、想定外の事態が起きたときにパニックを起こして対処できない者が多いのです」