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よい睡眠は「食事で作れる」⁉
ブルーバックス編集部 プロフィール

睡眠を研究することのむずかしさ

動物を用いた研究で、よく用いられるのはマウスですが、実は、マウスで睡眠の研究をするのは、想像するほど簡単ではありません。

これまでの多くの実験では単純に眠らせないようにした(断眠させた)マウスを使っていましたが、大石さんは、それでは睡眠障害の特徴を見逃してしまう可能性があると指摘します。

「たとえば糖尿病の治療薬を開発するときには、糖尿病のモデル動物が必要になります。同じように睡眠障害の研究をするためには、長期的に見て睡眠のリズムが乱れたようなモデル動物が必要です。

健康なマウスを一時的に断眠させたのでは、睡眠障害の真のメカニズムは解明できないと考えています」

睡眠のリズムが乱れたマウスをつくる!? いったいどうやって?

 

どんな疾患でも、その原因は遺伝的な要因と、環境要因とにわけることができます。たとえば、遺伝的な要因からみると、生物には生体リズムを制御している時計遺伝子というものがあり、この時計遺伝子を欠損させたマウスは、たしかに睡眠障害に陥るのです。

しかし、これは多くの人が悩んでいる睡眠障害とは異なるものです。

「環境的な要因によって体内時計を乱す、睡眠を乱す、そういうモデル動物を開発しないと、人の疾患メカニズムというのは、わからないだろうと考えています」

そこで大石さんが着目したのが、ストレスです。

動物を使ったストレス実験はさまざまなものがありますが、実際に睡眠が乱れるようなストレスというのは、意外にもなかなか見つからなかったそうです。

大石さんが見出したのは、飼育するケージの底に、薄く水を張るという方法です。聞いてしまえばとても単純なものですが、この方法を発見するまでには、さまざまな試行錯誤があったそうです。

こういう意外なところに、研究者の苦労が隠れているんですね。

[写真]大石さんの研究室で使われているケージ大石さんの研究室で使われているケージ。底に水を張ることでマウスにストレスを与えて、睡眠障害を引き起こす

この、睡眠障害のマウスを使うことで、予想通り、これまで見えていなかった事実が明らかになってきました。

たとえば、それまでの研究で睡眠障害になると脳内での量が増えると言われていた、「HOMER1」というタンパク質があります。

断眠したマウスと睡眠障害のマウスで比較してみたところ、「HOMER1」は一時的な断眠状態にしたマウスではたしかに増えているけれど、大石さんが開発した手法で睡眠障害にしたマウスではじつはあまり変わっていなかったことが明らかになりました。

「つまり、HOMER1が睡眠障害の特徴であるという従来の考えは誤りである可能性があります。短期的な断眠実験と、長期的な睡眠障害にしたモデル動物では、別の特徴を見ていると考えています」

また、このような実験から、睡眠障害のときには、普段は厳密に保たれている血中のアミノ酸バランスがどのように変化するかを調べることで、睡眠障害を客観的に評価する基準をつくることができる可能性もあるそうです。