大ベストセラーシリーズ『怖い絵』がついに展覧会に!

「レディ・ジェーン・グレイの処刑」も公開
中野 京子 プロフィール

9日間の女王

「怖い絵」展の「顔」とも言うべきポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」(1833)についても触れたい。イギリス史を研究しつくしたフランス人画家の手による傑作だ。ロンドン留学中の夏目漱石が本作を見て、小説『倫敦塔』に結実させたことは良く知られている。

この絵はもちろん見ただけで怖い。タイトルから処刑シーンとわかるわけだし、目隠しをされ、首置き台を手探りするのは若い女性である。右端の首斬り人の持つ、斬れ味悪そうな斧も、血を吸うために敷かれた藁も戦慄的だ。髪の毛は刃が滑らないようにまとめられ、細い首を出すため、襟は大きく拡げられている。嘆く侍女たち。台へ導く司祭……。

 

ここはどこか? おどろおどろしい要塞ロンドン塔だ。

いつのことか? 1554年。まだギロチンは発明されておらず、処刑人頼みの斬首は失敗が多かった。

ジェーンは何歳だったのか? 16歳4ヵ月。

罪状は? 反逆罪。

何と怖ろしい罪状であろう。だが彼女に罪があるとすれば、それは周囲の陰謀に気づかなかったこと(実際には気づいてもどうしようもなかったろうが)。悲運はヘンリー八世の姪の娘に生まれ、王位継承順位の末端に名を挙げられていたこと。権力志向の舅と実父によって、前王死去直後、ジェーンは何も知らされぬまま女王の座へつけられる。たちまち王位継承1位のメアリが兵をあげ、ジェーンたちは捕らえられた。彼女の異名は「9日間の女王」。

ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, © The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902

左手の指に真新しい指輪が光る。ジェーンはメアリ新女王から、カトリックに改宗したら命だけは助けてやると言われても拒み、プロテスタントとして、イングランド初の元女王として死に赴いた。取り乱すことのない見事な最期だったという。

記録では処刑時には黒いドレス。それをドラロ―シュは眩いばかりの白に変えた。ジェーンの若さ、無垢、無実を強調するために。処刑場所も屋外から建物内へ変えている。演劇の舞台を間近で見るような、凄まじい迫力を醸し出すために。

ここまでを知識として頭に入れ、あとはこの傑作に直に対峙し対話をしてもらいたい。先行した兵庫県立美術館では、多くの女性たちが涙ぐんでいた。

怖い絵」展
2017年12月17日(日)まで上野の森美術館で開催中
開館時間:10:00〜17:00(会期中無休、入場は閉館の30分前まで)