母のネグレクトと兄からの性的虐待…「愛着障害」になった女の一生

育てられない母親たち⑦
石井 光太 プロフィール

生まれてこなければよかったのに

現在、美千と勇は、籍はそのままだが、別居している。勇が娘と暮らし、美千は別にアパートを借りてもらって、そこで一人暮らしをしているのだ。

勇の言葉である。

「事件の後に診てもらった医師によれば、美千は『愛着障害』なんだそうです。幼い頃の家庭環境が大きく影響しているとか。先生に説明されて彼女の生い立ちを初めて知りましたし、同情するべき点はあると思います。でも、子供の安全を考えれば、彼女とは距離を置いた方がいい。ただ、彼女にしても1人でやっていくのは難しいでしょう。それで別々に暮らしながら支援していくことにしたんです」

 

愛着障害とは、幼少期に親との愛着関係をうまく構築できず育つことで、ゆがんだ人格を持つようになることだ。美千が母親からの愛情不足に加えて、兄からの性的虐待を受けたことで、過剰なほど人に愛情を求めるようになったのは明らかだ。自分が愛されるためなら、わが子をも蹴落とすくらいの愛情の枯渇である。それが日常的な虐待だけでなく、傷害事件まで生んでしまったのだろう。

その後、私は美千にも会って話を聞くことになった。一瞥しただけでは、ごく普通の30歳前後の女性だ。だが、彼女の口から漏れる言葉は、私が理解できるものではなかった。

「こんなことがあっても、まだ私は娘のことを愛せないんです。かわいいと思えない。だって、もっと大きくなったら、もっとわざと夫の関心を持っていこうとするじゃないですか。それを考えたら好きになんてなれません。

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一方で、娘が大きくなって私がされたように男性に変なことされたから、かわいそうっていう思いもあるんです。だから、生まれてこなかったら良かったのに、生まれてこなかったらこんなことにならなかったのにって思うんです」

言葉に矛盾があるように思えるが、どちらも彼女が幼少期に受けた心の傷がもとになって生まれた感情なのだろう。それほどまでに心が引き裂かれてしまっているのだ。

不幸中の幸いは、勇が見限らずに支援をしてくれていることだ。

ただ、美千が今の別居生活をどこまで受け入れるかというのは別の話だ。もしかしたら美千の方から人のぬくもりほしさに勇と距離を置き、別の男性を求めるようになるかも知れない。そうなった時、また一から同じような問題と向き合わなければならなくなることは自明だ。

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

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