母のネグレクトと兄からの性的虐待…「愛着障害」になった女の一生

育てられない母親たち⑦
石井 光太 プロフィール

6回もの中絶手術

夜毎の兄からの行為は、3年ほどでぴたりと止まった。定時制高校に進学した兄は、恋人ができたのがきっかけなのか、一切妹に性的なことをしなくなったのである。

表面上、美千は兄と何事もなかったかのように仲良く付き合い、兄の恋人とも親しくしたが、心の底ではまたいつ性的な行為がはじまるかもしれないという恐怖心を抱えるようになった。そのせいもあるのだろう、摂食障害や自傷行為が止むことはなかった。

美千が、兄以外と初めて性行為をしたのは、高校2年の時だった。これまでは性的なことについては嫌悪感しかなく、男性は恐怖の対象でしかなかった。だが、ある日、先輩の家に遊びに行って性行為を迫られ、断れずに受け入れたのをきっかけに次々と男性と肉体関係を結ぶようになっていく。

 

美千は言う。

「もうどうでもいいやって感じだったかな。セックス自体は好きじゃなかったけど、男の人に会えば求められるし、他にすることもなかったから……。あの頃はお兄ちゃんもお母さんも家にいなかったから、一人ぼっちっていうのが嫌だったのかも」

高校を卒業してアパレルショップで働き出した後も、美千の乱れた性生活はつづいた。特定の恋人がいても寂しさが癒されることはなく、出会い系サイトなどを通じて別の男性と肉体関係を持ってしまう。常に複数の男性とつながっていなければ不安で仕方なかった。

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だが、こうした行為は彼女を傷つけることにしかならなかった。24歳までに、6回もの中絶手術を受けたのだ。避妊をしてほしいと言い出せない性格が災いした。

美千は手術を受ける度に、自分の愚かさを知らしめられ、自己否定感を募らせた。6回目の中絶手術を受けた頃には、うつ病のような症状になって通院するまでになっていた。そんな時に仕事を通じて出会ったのが、小宮山勇(仮名)という男性だった。

勇は19歳年上で、そこそこ有名な企業に勤めていた。バツ2の独身で、1人息子がいたが、ちょうど大学に入って手がかからなくなっていた。美千は日常のことを相談しているうちに父親ほども年齢のちがう勇と恋に落ち、結婚を決めた。

娘に嫉妬する

美千のお腹には勇との赤ん坊が宿った。美千は6回も中絶した経験から、次こそは産みたいという気持ちが大きかった。勇も「1人くらいなら」と言ってくれたので、出産を決心した。生まれたのは、女の子だった。

勇は娘をそれこそ目に入れても痛くないというように溺愛した。大学生の子供は男の子だったし、孫ほども離れている娘がかわいくて仕方がなかったのだろう。それまでは残業つづきだったのに、毎晩8時前には帰宅するようになり、土日は1日中一緒にいた。

美千は、勇がかわいがればかわいがるほど、娘が憎たらしくなってきた。勇は口を開けば娘の話ばかり。自分のことは構ってくれないばかりか、2人で寝ることもなくなった。

――私から夫を奪う娘が憎たらしい。

そんなふうに考えるようになった。彼女は不遇な子供時代のせいで愛情に人一倍飢えていた。結婚してからは、勇1人にその愛情を求めていた。だが、娘が生まれたことで、勇の愛情が自分に向かなくなった。そのことが怒りへと変わったのである。