「完璧なママ」が「虐待ママ」に変身するまで

育てられない母親たち⑥
石井 光太 プロフィール

大志は次のように語る。

「妻は人一倍いいように見られたいという思いが強いんです。そのためなら、何でも犠牲にしてしまう。だから、家事をあれだけ見事にこなしていたんだろうし、姑にも同僚にも怖いくらいに熱心に尽くしたんでしょう。

でも、子育てがうまくいかなくなって、完璧主義に限界が来てしまった。その時、なんとか自分を良く見せようとするあまり、子供に洗剤を飲ませたり、怪我を負わせたりした上で必死に看病をしているところを見せようとしたのではないでしょうか。良いママである自分を褒めてもらいたかったんだと思います」

桂里奈の取った行動はあまりに浅はかだ。ただし、子供を虐待する親の中には、ある一定数こういう人たちがいるという。もともと自己否定感がつよく、なんとかして人に良く見てもらいたいと思い、子供を傷つけて「献身的に看病する親」を演じたがる人だ。

大志によれば、桂里奈は「代理ミュンヒハウゼン症候群」なのだそうだ。精神疾患の1つである。自分の代わりに誰かを患者にさせ、看病をすることで人にほめてもらおうとするのだ。

厚生労働省の調べによれば、児童虐待で死亡した子供のうち4.5パーセントがこの精神疾患によって死亡しているという。事実が発覚しない例を含めれば、それ以上の数になる可能性はある。

桂里奈の場合は、大志や両親に理解があったことから、家族の支援を受けながら心療内科へ通うこととなった。だが、家族の理解や支援がない人も決して少なくないだろう。

さらにいえば、これが年老いた親に向けば「高齢者虐待」に、障害者に向けば「障害者虐待」になるなど、形が変わる恐れがあるということだ。

ある意味において、「完璧なママ」は、「虐待ママ」と表裏一体なのかもしれない。

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

「親子愛」という粉飾が家族を追い詰める