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「完璧なママ」が「虐待ママ」に変身するまで

育てられない母親たち⑥

ノンフィクション作家の石井光太さんが、「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

――自分を良く見せたい。

誰もが抱くそんな思い。だが、それが虐待につながることをご存知だろうか。今回紹介するのは、「完璧なママ」が「虐待ママ」へと変身する過程についてである。

出来過ぎたお嫁さん

萩尾桂里奈が夫の大志(共に仮名)と結婚したのは、22歳の頃だった。高校卒業後に家を出て、しばらくパートを転々とした後、インターネットで大志と知り合い、半年後に結婚したのだ。

もともとは大志の方が桂里奈より婚願望が強かった。年齢は一回り年上の 38歳。勤め先もお堅い金融関係だった。離婚歴が一度あり、子供はいなかった。

桂里奈と付き合った時、彼はこれが家庭を持てるラストチャンスだと思っていた。それで出会ってからわずか3ヵ月後にプロポーズ。5ヵ月目に籍を入れたのである。

 

大志は言う。

「彼女の家庭的なところが気に入ったんです。デートの時はかならず豪華なお弁当をつくってくれた。それこそおせち料理みたいな豪勢なものだった。お酒もついでくれたし、僕の友人に対する気配りも素晴らしくて、会わせる人すべてに手作りのお土産を用意していたほどでした。まさに完璧。この女性とならやっていけるっていうのがあったんです」

結婚後、2人は大志の実家で暮らすことになった。ゆくゆくはマイホームを手に入れたいと考えていたため、最初の数年間は貯金に力を入れようと考えたのである。

桂里奈の献身的な態度は、結婚後も変わらなかった。朝5時に起きてご飯の用意をして、毎日家の隅々までモップがけをして、病気がちだった姑の面倒もみた。夕食はかならず6、7品つくり、食後のデザートは手作り。夫が仕事で飲み会に行くと言えば、全員分のプレゼントを用意した。

大志は同居する母からくり返し言われた。

「おまえには出来過ぎたお嫁さんだよ。大切にしなさい」

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大志は仕事が多忙だったが、極力週に1日は2人だけの時間をつくるようにしていた。桂里奈は嫉妬深く、少し放っておくと怒り出してしまう。そんな時は別人になったように怒鳴り散らしたり、物を投げてきたりするのだ。

ちょっと感情の起伏が激しすぎるかな、と思うことはあった。だが、まだ20代前半だし、それだけ自分のことを愛してくれているのだろうと思い、たいして気に留めていなかった。