「地元帰るか、ソープで働くか」に悩むアラフォー女子の憂鬱

A子ちゃんとB美ちゃんの複雑な感情⑥
鈴木 涼美 プロフィール

「地元に帰る」という選択肢

「私思ったんだけど、私の正解って結婚以外になくない?」

これは彼女が35歳になった頃、モツ鍋屋で言っていた言葉だ。

「あんたの言う選択って、働いて出世して若干髪とか肌とか荒れて合コン偏差値下がって女としての幸せをないがしろにするか、あるいは勉強とかいい仕事とかのラインを放棄してホステス的に良い靴と綺麗な顔、専業主婦的に子供と幸福をとるか、っていう話でしょ。

 

私の知る限り、私も周りも、そんな次元で迷ってないのに、正社員じゃなくてエリートじゃないなら、結婚しか正解がないんだとしたら、そんな言論になんの意味があるの。そんな事より、安くて美味しいお店の情報のが使えるの」

彼女はその言葉通り、別に社会人としての成功か、女としての幸福か、の間で揺らぐ事なく、かといって絶望の淵に立つ事なく、誰の役にも大してたってはいないが誰にも迷惑かけてもない的な慎ましい生活を続け、現在は縁があって手伝ったトリマーのコンテストの運営の仕事などもしながら、京王線沿いの地味な写真館でバイトもしている。35を過ぎてから、ちょっとお金が必要な時はキャバクラではなく熟女キャバクラの求人を見るようになった。

彼氏はいたりいなかったりで、好きな男性歌手のライブに行って「やっぱ稲葉さんと結婚するわ」と抜かすくらいにはバカである。結婚を考えた相手はおらず、付き合った男も大抵1年以内に彼女の方の熱が冷めてあまり会わなくなる。

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実家には1年に3回ほど帰るが、誰と付き合っているとか何の仕事をしているとか、そんな話はもう10年近くしていない。親は結構面倒見がよく、時々ダンボールに食料やあんまり趣味がいいとは言えない衣類をまとめて送ってくれる。

「親とは昔から割と仲良しだからね。人から見たら、別に旦那もいないし、学校なんてとっくに出たし、仕事してるわけじゃないし、なんの理由もなく東京にいて、家賃のためだけに働いているように見えるなっていうのはわかる。でもどの時点でそうなるのって感じ。東京の大学入るのは普通で、百貨店で働くのも普通で、まだ20代なら1回くらい転職したってまだ東京いるじゃんね」

アルバイトの仕事のみでの生活ではちょこちょこ「地元(実家)に帰る」という選択肢がよぎる。というかむしろ、その最後の砦があるからこそ、結婚や仕事に必死にならないという見方もできるが、彼女はその見解を拒否する。

「確かに、親が生きてるのはある。けど私は、田舎がどういうものか知ってるから。最後の砦ではあるけど、田舎に帰るってなった時は本当に不治の病になった時か、全てに諦めがついたとき。せっかくこの年までやらないできたからできれば風俗はやりたくないけど、地元帰るかソープに行くかだったら、結構迷ってソープを取るかも。まぁどっちにしろ40歳になったらその需要もないかもね」

最後の砦に入っていくことがないように、彼女は今月も9万円の家賃を支払い、来年1月に迫るマンションの更新を乗り切るために、ちょこちょこ夜職の求人サイトを見ている。40歳まではあと2年、「最近はちょっと郊外だとキャバクラより熟女キャバの方が客入ってることもあるし、ありがたい」とぼやく。

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哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録。