「小説が消滅するかも」17万部作家が、いま抱いている危惧

『騙し絵の牙』で描きたかったこと
現代ビジネス編集部 プロフィール

大泉洋さんから教えてもらった大事なこと

――それでも、そもそもの前提である「売れるものを書く」というのはなかなか難しい命題ですよね。

塩田 それこそ思考力が問われます(笑)。でも、やり方はあるはずです。例えば次の作品のテーマを考える際に、自分が「これを書きたい」というテーマを考えることも大切だけれど、『いま世間はこの事象・事件に関心があるだろう。だからこのテーマの本質に迫ろう』と発想を転換させることもひとつの策かもしれません。

――いわゆる「プロダクトアウト」(ビジネスをやるうえで、自分がやりたいことをやること)から「マーケットイン」(市場が望んでいることをやること)への転換、ということですね。ビジネスの世界で当たり前に行われていることを、作家もやるべきではないか、と。

塩田 本当は、名前で買ってもらえる作家になれればいいんですが、まだまだそんな域ではありませんからね。繰り返しますが、『騙し絵の牙』が出だし好調なのは大泉洋さんのおかげですから。

――確かに、大泉洋さんを主人公にした小説という発想には驚きました。話題性も帯びますし、ファンの方は手に取るはず。それがきっかけとなって、はじめて塩田さんの小説を読む人だっているでしょう。裾野を広げるという意味でも、すごくよくできた「仕掛け」だなと思います。

塩田 もともと僕の担当編集が、大泉洋さんのエッセイ作品の担当でもあり、「大泉洋さんを主人公にした作品を書いてみませんか」と提案をもらったことがきっかけでした。実は、今日話したことは大泉さんから受けた影響によるところも大きいんです。

打ち合わせのときに大泉さんとお話をしていると、とにかく「万人に喜んでもらえること」を意識していることが伝わってくるんですね。もちろん、大泉さんが携わった作品の中にはマニアックな笑いや設定もなかにはあるんですが、基本的には「広く受け入れられること」を意識していらっしゃったんです。一流の役者はこう考えているのかと、本当に勉強になりました。

もう一つは、仕事においては何事にも本気であるべきだということを教えてもらいました。この小説の表紙や作中の写真(注:章の扉ごとに大泉さん扮する速水の写真が差し込まれている)を撮るときでも、ただ撮影をするだけではなく、大泉さんは何十秒かの寸劇を演じてくれるんですよ。怒りの表情を撮るときには怒りの寸劇を、哀しい表情を撮るときには悲しい寸劇を、というように。

このサービス精神、あるいは役者魂というべきでしょうか…これは本当にすごいなと。ドラマやCMの撮影で多忙な人が、小説で使う写真撮影のために全力投球をしてくださっている。作品に出て「はい終わり」、ではなくて、読者やファンに届けるところまで力を尽くしている。ああ、これがプロなんだなと。それが、「小説を書いて終わり、じゃダメ」という考えにもつながっています。

…とさんざんエラそうなことを言いましたが、そもそも『騙し絵の牙』が売れなかったら、それはもう、恥ずかしいことになってしまいます(笑)。大泉さんファンでもそうでなくとも、あるいは出版業界に興味がなくとも、必ず満足させる自信はあります。本作を読んで、また新たな「小説の魅力」に気づく方を一人でも増やすことができれば本望ですね。

(取材・文/阪上大葉 現代ビジネス編集部)