「小説が消滅するかも」17万部作家が、いま抱いている危惧

『騙し絵の牙』で描きたかったこと
現代ビジネス編集部 プロフィール

おべっかなんて使わなくていいから

塩田 人生においてなにが一番必要かと考えると、やはり想像力と思考力だと思うんですね。学校の試験でも、就職面接でも、勤務先での企画会議でも…頭のなかで自分がやりたいこと、自分が望むものを思い浮かべて、それを実現するプロセスを言語化して、人に説明する。自分を動かすにも、人を動かすにもこの二つの力が必要です。

そして、長い時間思考を続ける忍耐力も必要。この想像力と思考力、そして忍耐力を養うことが、人生を豊かにできるかどうかのカギになる。

少なくともSNS上で流れてくる友達の写真をみて、流れ作業で「いいね」をつけることではこの力は養われないでしょう。5分動画を観て笑っても、養われるものではありません。むしろ、じっくり思考する時間が短いという意味で、想像力も思考力も、忍耐力も奪われているとも思います。結局、人間の思考の大部分が言葉で成り立っている以上、言葉を鍛えなければ、思考力は上がらないのです。

小説は、なにも存在しない空間に、言葉だけで新たな世界を構築していく。読者はそれを追うことで、想像力も思考力も鍛えられる。一冊の本を読み、じっくり考えることで忍耐力も身につく。これこそが、小説の力なんですよ。

僕は、小説を読む人が多い世界の方が豊かな社会になると思っています。それぐらい小説の力を信じているからこそ、本を、特に小説を読む人が少なくなっている現状に危機感を覚えているんです。

――他のエンターテインメントがあふれている中で、確かに小説の「順位」というのは下へ下へ追いやられていくかもしれませんね。

塩田 だから、作家も編集者も自信をもって『面白い』と言える小説を出し続けることが大切なんです。エンターテインメントの「順位」って、結局その人にとっての満足度だと思う。せっかく手に取った小説がつまらなかったら、その読者は二度と小説を読まないかもしれない。いまは特に、損をすることを嫌う風潮が強いですから。

面白いものを書いて、それを手に取ってもらうための工夫を惜しまない。一人でも多くの読者を増やすための努力を惜しまない。…そうやって読者のすそ野を広げて、「やっぱり小説っていいよね」と言ってもらえる人が増えること。これを目指さなければなりません。

この感覚を担当編集者と共有できるかは、とても大切。「おべっかを使う時間があるなら、その時間を、本を売るための努力に使ってくれ。こっちは、褒められなくてもちゃんと小説を書くから!」といったところでしょうか(笑)。