泣けて泣けて泣けた…「ひよっこ」の名セリフ【みね子の叫び編】

あの感動をもう一度④
堀井 憲一郎 プロフィール

幸せでいてもらわないと困るんです」

このあと、世津子は金銭スキャンダルから事務所をやめ、女優も休み、自宅に籠もりっきりになる。それを知ったみね子は、ヒデとヤスハルの協力を取り付け「では、おのおの、ぬがりなぐ」と指令して、世津子救出に向かう。〔135話。9/6〕

出前です、と叫んで、何とか単独で室内へ入り、世津子と対面する。

「みね子ちゃん…どうしたの」

「ここ、出ましょう。私んとこに行きましょう。ね。こんなとこに、こんな状態で一人でいちゃだめですっ! ね。行ぎましょ」

「どうして」

「世津子さんには、幸せでいてもらわないと困るんです。じゃないと、お父ちゃんに起きてしまった哀しい出来事が、なしにならない。私は、なしに、したいんです。だがら……行ぎましょう」

そのあと世津子が大きな荷物を持ってきたので「ちょっと。なに考えてんですか。そんなんダメです」と叱る。あ、ごめんなさい、どうしよう、と慌てる世津子。

タイミングを見計らい「行ぐよ」と言って、世津子の手を強く握る。その握られた手を見て、泣きそうになる世津子。それほどの心細さであったのかと、見ているこちらまで、その不安と、みね子の暖かさに泣きそうになった。

そうして、マスコミの囲みを突破し、あかね荘にたどりつき、みね子と世津子は、友だちになった。

 

「ミノルって、いー名前ですね」

ミノルは記憶を戻さないまま、でも茨城の農家できちんと働いている。

この、記憶がきちんと戻ってないまま、ドラマが終わったところがすごかった。

最終回に一部だけ思い出したが、一部だけ。結局、思い出さないままに終わったのが見事だったと私はおもう。

ミノルはしっかり土に生きる男であった。

「お父さん、美代子、みね子、ちよこ、ススム、ご心配をおかけして、すんませんでした。申し訳ないです。それから、自分の家族のことがわがんなくて、なんつっていいのか、ほんとに、ごめんなさい。記憶が戻っかどうかもわがんねえし、自分がどうなんのかもさっぱりわがんねえ。でも、ここで、取り戻して、もっぺんやり直して、生き直して、そうおもって帰ってぎました。どうか、よろしくお願いします」

これが帰着したときの挨拶。〔111話。8/9〕

田植えの日の朝、じっちゃんに向かって、つまり自分の父親に向かって、名前のことを言った。

「あのー、お父さ……父ちゃん」「あー、なんだ?」「ミノルって、いー名前ですね。好きです」〔112話。8/9〕

それを聞いて、じっちゃんはおもわず、泣き出しそうになる。

自分の名前のことを、あらためて見つめなおすというのは、あまりないことだ。名付けてくれた親に礼を言う機会もあまりないだろう。記憶がないからこそ、そういうことがストレートにできたのだ。とてもよかった。