「ひよっこ」戦争体験者の心情の描き方がゾッとするほどリアルだった

あの感動をもう一度③
堀井 憲一郎 プロフィール

真っ暗なジャングルで遭遇したイギリス兵が…

戦争の話で、もっとも印象深いのは、みね子の叔父ムネオの話だ。〔147話。9/20〕

ビートルズ公演の警備のための赤飯をみんなで夜を徹して作っていたとき。

戦争のときは、どこにいたとシェフに聞かれ、陸軍でビルマに、と答えると、シェフは驚いた。

「おまえ茨城だろ。ビルマってまさか、インパール作戦ってことか」と質された。ビルマ戦線で日本が戦った相手は、イギリス軍である。

「はい生き残りです。仲間はほとんどみな、戦死しました」

そのあと、斥候に出された話を始める。

「ある晩によ、斥候っつってな、まあ、偵察みたいなもんだな、斥候に行かされてよ、その夜は、月が曇ってて、おまけにジャングルの中だから真っ暗でよ、なーんも見えねえんだ」

「で、いきなり出くわした……イギリス兵にね……気が付いたらすぐ目の前にいて。おれも驚いたけど、向こうも驚いた顔してた。お互い銃を構えてさ、動けなかった。おれ怖くて震えてたけど、向こうも同じだったんだろうな」

「だんだん暗闇に目が慣れてきて、相手の顔が、見えた。靴墨で黒く塗ってやがったけどよ、おれと、おんなじような年ごろの男だったよ。いまの、みね子ぐらいかな」

 

「遠ぐから声が聞こえたんだ。向こうの仲間だ。そしだらよ、目の前の奴が、仲間に何か言ったんだ。何っつったのか、わがんね。何っつったのかわがんねえから、よけい怖くてよ……ほしたら……ほしたらな、そいつ、おれ見て、ニッコリ笑ったんだよ。笑ったの。でそのまま、仲間のようす走ってった」(*仲間のようす、と私には聞こえた。たぶん違っている。)

「おれはそのままぼーっとしてて、いつまでもぼーっとしててよ、なーんで笑ったんだよってわがんなくてよ、わがんなくてさー……でも、おれはあいつのおかげで死なずにすんだの」

「おれな。くやしかったんだよー。おれは笑うこと、できなかったからなーーー。だからよ、何かあっても、拾った命だから、笑って生きようって決めたんだ。くやしかったからねー。」

「で、ビートルズだよ。ちっきしょー。またイギリスかよっておもったけどよ、なんか、おれは、嬉しかったんだー……もちろんよ、ビートルズとそんときのあいつは関係ないとおもうけっどよ。たしかにおれは、あいつのおかげで、生きてんのかもしんねえけど、あいつだって、おれのおかげで、生きてるって考え方もあっぺ」

「だからよ、おれの中で、ビートルズとあいつとが、ごっちゃになってちまって(笑)、だからよ、なんか言いてえんだ、ビートルズによ、おれは生きてっどー、てな。ん。おれは笑って生きてっどー。おめえは生きてっか。笑ってっかー。てな。言いてえんだ。叫びてえんだー」

なぜムネオおじさんはいつも笑っているのだろう、とみね子はむかしから不思議におもっていた。これが回答だった。このドラマの大きなポイントになっている話だ。