「トンデモ説」に殺されないために全員が身につけるべき「武器」

医学のメリットを十分に享受するには
仲野 徹 プロフィール

代替医療と標準治療の決定的な違い

医学リテラシーを身につけるために、なにより重要なのは、まず、病気のことなんか難しくてわかりそうにない、などと思わないこと。いいかえれば、わかるはずだ、という気持ちになることだ。のんでかかったような気持ちで理解していくこと、まずはそれが肝要なのである。

という気持ちで書き上げたのが、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)だ。これまでにないタイプの本だと自負はしていたが、それだけに、受け入れてもらえるかどうか不安があった。

が、自分で言うのもなんだが、発売すぐから驚くほどのスピードで売れている。もしかしたら、こういう本を待っている人がけっこうおられたのかもしれない。

400ページ弱の本なのですべての病気について書けた訳ではない。しかし、中でも特に力をいれて書いたのは、いまや日本における死因の1位、国民の半分が一生のうちに一度は罹るという「がん」についてである。

100ページにも満たない、がんについての基礎的な話の部分を読んでもらえたら、がんというのは、どういう病気なのか、が、おおよそわかってもらえるはずだ。

 

がんは、その発症に関係する遺伝子に変異が生じたたった1個の細胞にはじまる。その細胞に変異が次第に蓄積されることにより、文字通り「進化」し、無限の増殖力を獲得して、がんを発症する。

最終的には数個の変異が必要なのだが、現在では、それぞれの変異がもたらす悪い作用を抑える特異的な効果を持つ、副作用の少ない分子標的療法も開発されている。

ちょっとしたプリンシプルを理解しただけで、「がんもどき」などという考えが、がん研究における膨大な成果からいかに逸脱したものであるか、また、がんが食事やサプリメントだけでなくなることなどありえない、といったことがわかる。そして、現在おこなわれている、標準的ながん治療のバックグラウンドも理解できる。

最近、米国エール大学のチームが、がんの治療において、代替医療の死亡リスクが標準治療の2.5倍になるとの論文を発表した。ニュースでも報道されていたが、さもありなんというところだ。

代替医療に全く効果がないとは言わない。しかし、代替医療と標準治療の決定的な違いは、医学的な検証に耐えうるエビデンスの有無である。

代替医療では統計的に有意な差があるような研究がおこなわれていないことが多いので、どのような患者に効果があるのか、どのような率で効果があるのか、あるいは副作用がどの程度でるか、の客観的指標がよくわからない。

個人の選択といえばそれまでだが、きちんとしたデータのない治療に命を預けたりするのはあまりに危険だろう。

標準治療といえども100%の効果を約束するものではない。過去の研究および使用実績から、こういった状況であれば、何パーセントの率で、どれくらいの治療効果がある、ということが示されるだけだ。

もちろん、あくまでも統計値であるから、予想以上に効果があるケースもあれば、逆のケースもある。そして、悩ましいことに、自分がどのケースにあてはまるかは、やってみないとわからない。

こう考えてみると、インフォームドコンセントに基づいて判断するには、確率的な考えも重要だ。

これは相当に個人差が大きくて、効果のある率が低くてもつっこんでいきたい人もいれば、高くても副作用があるのはいやだという人もいるだろう。どちらが正しいというものではない。

結局のところ、しっかりした医学リテラシーを持った上で、自分の性格を見極めて決断するしかない。