「トンデモ説」に殺されないために全員が身につけるべき「武器」

医学のメリットを十分に享受するには
仲野 徹 プロフィール

医学用語を正しくイメージする

一般向けの病理学についての本を書きませんかとのお誘いをうけたのは、もう6年も前のこと。専門書しか書いたことがなかったので、はたしてできるかどうかわからないが、えいやっとお引き受けした。

ちょっとえらそうだが、ひとりでも多くの人に医学リテラシーを身につけてもらいたいというのが壮大な目的だ。しかし、書き始めていきなりわかったことは、難しい、ということであった。

当然のことながら、医学の世界では日常的に専門用語が使われている。そこで使われている言葉がわからないと、なかなか内容の説明が困難なのだ。一般の人がそういった用語を理解しておられるかというと、答えはノーだ。

 

それでも、そこをなんとかしなければ、それこそお話にならない。なので、執筆にあたって、まずは必要な医学用語を丁寧に説明することにした。

ある言葉、たとえば、がんでもいいし梗塞でもいい、について、きちんと理解し、正しいイメージを頭に思い浮かべることができる、それが医学リテラシーを身につける第一歩に違いないと考えたのだ。

専門用語を理解するなんて難しそうと思われるかもしれないが、決してそのようなことはない。ただ、とっつきが悪いのは間違いない。医学生たちも、病理学は難しいという。それは、なにも概念的な難しさではなく、初めて見る病気関連用語がたくさん出てくるから難しいような気がするだけなのだ。そこのところを混同してはならない。

確かに最初は聞き慣れない言葉ばかりだろう。しかし、医学で使われる論理などというものは、まったくもってたいしたことのないものばかりであって、気の利いた子どもなら小学校高学年くらいで十分に理解できる。その程度の理屈の上にある用語なのだから、筋道立てて説明を聞きさえすれば、必ずわかる。

たとえば、「血栓塞栓による虚血が脳梗塞を引き起こす」という文章は、なんともえらそうだ。

しかし、ひらたくいうと、「血の塊(=血栓)がどこからか流れてきて血管につまって(=塞栓)、脳に血液が十分にいかなくなって(=虚血)、脳の細胞がたくさん死んだ(=梗塞)状態になった」ということである。

このように、かっこ内に記した用語の意味さえわかっていたら、どうということはないのである。