セリフで振り返る「ひよっこ」名シーン【トミと早苗の恋編】

あの感動をもう一度②
堀井 憲一郎 プロフィール

132話〔9/2〕でトミさんは過去を語った。

「死んじゃったか。もう一度、会いたかったな」

「私は赤坂で一番美しい芸者として、とても人気だった。輝いてた。そのとき彼と出会ったの。大きな会社の、御曹司」

「何度も会ううちに、恋に落ちたの。背が高くって、彫りが深くて、ダグラス・ヘアバンクスみたいな、いい男」

俳優の時代感がいい。

 

「芸者の身の上、いつも一緒というわけにはいかなかったけど、2人で旅に出た。いろんなところへ」

このあとの列挙が見事だった。

「松島の、美しい島々。天の橋立。安芸の宮島。北海道の毛ガニ。仙台の笹かまぼこ。茨城のアンコウ。山梨の富士山。静岡のうなぎ。新潟のへぎそば。富山のホタルイカ。福井の越前ガニ。三重の伊勢海老。奈良の柿の葉寿司。つーてんかーくで、お好み焼き。讃岐うどん。宍道湖のしじみ。土佐のカツオ。下関のフグ。長崎のカステラ。阿蘇山の、カルデラ。鹿児島の桜島。沖縄の、青い、海。みんな、素敵だった。だから、全国の名産品が、いまも、好き。思い出すから」

「戦争とか、つらいことは、なーんにも覚えちゃいないわ。そういうことは全部忘れた。だから、私の人生楽しいことでいっぱい。ここには彼が私にくれた家があった。ここにいれば、素敵な思い出ばかり。あの、桜は、息を呑むほど美しかったわ。その桜……そして、いま、……桜は……散ったわ」

早苗さんの恋

謎の美女ビジネスガールの早苗さんは、ずいぶん最後に近づいてから、18のときの恋の話を聞かせてくれた。〔145話。9/18〕

岩手の一ノ関から出てきて、初めての東京、まず、銀座のデパートに行き、屋上に上がろうと、エレベーターに乗った。

「生まれて初めてのエレベーターだ。エレベーターにね、閉じ込められた。突然止まって、5時間も。乗ってたのは2人。私と男の人の2人きり」

(余計なことながら、1955年ころのデパートのエレベーターに操作手がいない〔エレベーターガールがいない〕ということは、ほぼありえないのだけれど、それはそれ、物語なので、ファンタジーなので、これでいいです)

「その人は、やさしい人で、私より背が高くて、25歳くらい、かっこよくて」「で、私、恋をしました」「5時間がたって、エレベーターが動き始める感じになって、あ、この人アメリカに行っちゃうんだ、もう会えないんだなあっておもって」「そしたら、彼は〝まいったなあ恋しちゃったな〟って言っちゃって」「気を失うかとおもいましたね」「〝好き、離れたくない〟って言いました」「〝これは運命だよなあ。必ず、一人前になって戻ってくるから、待っててくれ〟〝待ちます〟〝そしたら結婚しよう〟〝はい〟〝何歳まで、待ってくれる〟」

ここで早苗さんは一呼吸おいた。

「にじゅうご」

聞いてるみんなも息を呑んだ。

「いまっでも、後悔してます。なんでいつまででもって言わなかったんだろうって。そのときの私は25って遠い遠い未来だったんでしょうね。ばかです。ほんっとに」「でも彼は、〝わかった、がんばらないとなー〟って言ってくれて。そして2人は救出されました」「話はそこまで。それっきり。私は25を越え、5年ほど経ちました」