「『ひよっこ』は言葉のドラマだった。セリフが、胸の深みに届いた」
コラムニスト・堀井憲一郎さんが初話から最終話まですべて見なおし、「心に残ったセリフたち」を書き留めた短期集中連載の第2回。あの感動がよみがえってきます!
→第1回【ミツオと豊子の絶叫編】はこちら gendai.ismedia.jp/articles/-/53065
女子寮を出たみね子は、赤坂のレストランに勤め、隣接したアパートあかね荘に住む。このアパートの住人たちと、新しい家族のように暮らす。
住人のキャラクターのなかで、もっともどうでもいい扱いをされていたのが漫画家さんである。
私は、このドラマの登場人物は、だいたい役名で言えるのだけれど、漫画家さんだけは思い出せなかった(祐二と啓輔)。ドラマ内でも名前を呼ばれず、いつも、漫画家さんと呼ばれてたからだ。
彼らの言葉で印象的なのは、ほぼ最後のほう、152話〔9/26〕で編集者に示された漫画の新しいプロットの話。
「実はですね。先日、編集者の人に言われまして」「言われてしまいまして」「主人公のみね子を宇宙人の女の子の設定にしたらどうかと」「もしくは50年後の未来、つまり21世紀の未来からやってきたロボットの女の子にしたらどうやと」
そういう提案をされたらしい。しかし、大切な仲間を悪く言われたような気がして、断った(のち撤回して、連載を始める)。
するとみね子が「でも、私なら大丈夫ですよ。気にしなくて。私は私として、谷田部みね子として、とっても幸せに生きてますから……なので、大丈夫ですよ。それに何だか面白そうですよ。どっちも漫画として。まあどっちかってたら、私は、未来からのほうが好きだな。楽しくて」。
50年後か、西暦で言うと2017年か、とみなで盛り上がり、無邪気な愛子さんが漫画家たちに「どんなんなってんの、2017年」と問う。
「そうですちゃね。まず、クルマは空を走っとっとおもわれます」「はい。あと、月にはふつうに人が旅行に行っとでしょう」「お月さまに!? あらー、行ってみたいわー」(トミさん)
たしかにこのころ1960年代の未来予想では、日本全国で一致して、21世紀の都市ではクルマは空を飛んでおり、家の固定電話はすべてテレビ電話となっている、とされていた。
誰も、個人個人で1人1台づつ小型の電話を持つ時代になる、とは予想していなかったし、動画カメラを取り付けて、ドローンが飛び回る世界になっているとも考えていなかった。
「小型軽量化」と「個々人に分かれて消費する」という世界がまったく想像できていなかった。重厚さが偉く、団体で行動するのが当然だったからだ。
未来はいつもおもわぬ方向からやって来る。