石田えりが56歳にして「ヘアヌード」を出す理由

まさか、あの巨匠が撮るなんて…
花房 麗子 プロフィール

伝説のフォトグラファー

ピーター・リンドバーグ(PETER LINDBERGH)

世界的トップフォトグラファー、広告写真界の大御所。白状すると、最初このプロジェクトを打ち明けられたとき、私は「えっ、まだご存命ですか」と口走っていた。それぐらい彼は、写真に関わる人々にとっては「伝説のフォトグラファー」なのだ。

Photo by GettyImages

1944年ドイツ生まれで御年73歳のリンドバーグは、『イタリアン・ヴォーグ』で注目され、『ヴァニティ・フェア』や『ローリングストーン』『GQ』など世界的な雑誌を舞台に今も世界中のセレブリティを撮り続けている。

とりわけ彼を著名にしたのは、80年代にリンダ・エヴァンジェリスタやケイト・モスなど〝スーパーモデル〟たちを世界的ブームに押し上げた功績だろう。

リンドバーグが撮る、目に強い光を湛えて時にタバコをくゆらせる「ハンサムウーマン」は世界中の女性の憧れとなり、そんな女性たちに支持されたい一流ブランドが、こぞって彼に仕事を依頼した。シャネル、エルメス、ルイ・ヴィトン……資生堂の仕事で来日したこともある。

いま日本で目にすることの出来る、彼の代表的な仕事としては、ピレリカレンダーの2017年版が挙げられるだろう。イタリアのタイヤメーカー・ピレリ(もっとも同社は’15年に中国国営企業の傘下に入っているが)は、毎年、販売促進のカレンダーに世界的な人物を登場させることで知られ、「世界で最も有名なカレンダー」と称される。

今年登場したのは、ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、ロビン・ライト、ユマ・サーマン、シャーロット・ランブリングなどなど。

リンドバーグが居を構えるのは、フランス・アルルの地だが、パリ、ロンドンやハリウッドにも頻繁に足を運ぶ。世界中からのオーダーをさばく、彼の辣腕エージェントは、ニューヨークに本社を置いている。

書いていてうんざりするほど、「スゴイ」要素はいくらでも並べられる。乱暴に言ってしまえば写真界のスピルバーグだ。ダンガリーシャツと眼鏡、白髪ぐらいしか共通点はないかもしれないが。

そんな御大が、なぜ「石田えり」の写真を撮っているのだろう。

世界的フォトグラファーとの写真集企画を実現させたのは、出版社の編集者ではなくて、石田だった。彼女が写真集を出すことを決意し、写真家も決めた。56歳にして、いわゆる「ヘアヌード」もある写真集を出すことを。

石田は1993年にも講談社から写真集『罪~インモラル~』を出版している。当時、国内では宮沢りえの『サンタフェ』が発売されてヘアヌードブームがわき起こっていたが、『罪』はその中でひときわ異彩を放っていた。

SM要素がふんだんに盛り込まれた倒錯の世界……写真家は耽美派の巨匠、ヘルムート・ニュートンだった。あの頃、海外の写真家に作品を頼む女優などいなかった。

このときも写真集出版にあたり、「世界一のフォトグラファーにヌードを撮ってもらいたい」と決めて、ヘルムート・ニュートンを選んだのは、石田自身だった。

しかも彼女は『罪』の撮影後10年ほど経ってから、ニュートンと「もう一冊写真集を作ろう」と話を進めていたのだという。だが、ニュートンは2004年1月心臓発作で急死してしまう。

構想は宙に浮いたまま、「もう一冊」という思いが彼女の中に残った。

「還暦になったら、もう一度、写真集を作る」

なんと、心の中でそう思っていたのだという。52歳からサーフィンを始め、毎年バリ島で波に乗る。還暦より少し早い56歳で偶然にも『ライザップ』のCMが舞い込み、身体を作った。何もかもが「写真集」へとつながった。