5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁

なぜ差別を受けるのか。解決できるのか
根本 敬 プロフィール

問4 「アラカン・ロヒンギャ救世軍」による政府軍襲撃の実態と、その背後関係はどのようなものか?

襲撃事件の全体像が明らかになるには、あと数ヵ月はかかると思われる。昨年(2016年)10月にもミャンマーの国境警備隊に対する似たような襲撃事件が生じ、そのときと今回の武装集団は名前こそ異なるものの、同じグループだとみなされている。

しかし、襲撃方法は大きく異なる。昨年10月の襲撃は事前に銃を揃え、用意周到に襲撃対象の隙を衝いた攻撃をおこなっているが、今回の襲撃は槍とナイフを武器に、アジア・太平洋戦争末期の日本軍の「万歳突撃」のような正面突破攻撃をおこなったため、襲撃した側に400人以上の大量の死者が出ている(政府軍側は10数名の死者)。この違いが何を意味するのかはまだはっきりしない。

背後関係についても、昨年10月の襲撃事件については、パキスタン育ちのロヒンギャがバングラデシュで武器調達をおこない、ラカインに入り込んで百人規模のロヒンギャ青年を訓練したことまではほぼ判明しているが、それがISまでつながるような背後関係を持っているのかはわかっていない。今回の襲撃事件については、より不明な点が多い。

明言できることは、彼らは一般のロヒンギャ住民とは無縁の集団だということである。

第二次大戦時のヨーロッパにおける対ナチ・レジスタンス活動のような武装闘争であれば、住民らの支持と協力なくしては活動が維持できないが、ロヒンギャ武装集団の行動にはそうした地元の協力が伴っていない。大半のロヒンギャ住民にとって、この武装集団は支持対象ではなく、支持や協力が伴っていない。

 

問5 ロヒンギャ問題解決へ向けて何をすべきか?

第一に取り組むべきことは、50万人を超えるロヒンギャ難民の保護と、帰還に向けた準備への着手である。

難民保護に関しては食料と医薬品、衣料品、その他生活必需品全般の早期供与と、何よりも環境の整った難民キャンプ設置への国際的協力が求められる。日本政府も財政支援については早々に実施を表明しているが、人的支援もおこなって貢献すべきである。

難民の帰還準備への着手に関しては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を軸に、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の間で話し合いを進め、帰還後のロヒンギャ住民の安全の保証をミャンマー政府に約束させ、かつUNHCRないしは第三者機関による厳格なモニタリングがなされるようにすべきである。また、ミャンマー政府に帰還難民へのメディアの自由取材も認めさせる必要がある。

第二に取り組むべきは、中長期的課題として、前述のコフィ・アナン元国連事務総長が委員長となった諮問委員会が出した提言をミャンマー政府に尊重させ、その中身に具体的に取り組ませることである。

ここで問題になるのは、ロヒンギャに対する国籍付与と、その際の民族名称である。ロヒンギャの人々はあくまでも「ロヒンギャ」という名称にこだわる。それは彼ら自身の名乗りであり、それを認めることは普遍的人権の面から見ても大切なことである。

しかし、諮問委員会はそこまで明言しておらず、このままだと「ベンガル系ミャンマー人」のような新しい民族的括りを政府側が用意し、それを受け入れるのであれば国籍を付与すると言い出す可能性が高い。

また、三世代にわたってラカインに住み続けていることを条件にした場合、そのことの「精査」が、逆に短期の流入者を合法的に追い出す措置を正当化することにつながり、ロヒンギャ側が容易に納得するとは思われない。

さらに軍は、治安対策と称して「精査」にあたってテロリストのあぶりだしを最重視することが確実であるため、これによって国籍付与対象が極端に絞りこまれることも予想される。

反ロヒンギャ感情を強く持つ国内世論の壁を考えた場合、このへんの調整はアウンサンスーチー国家顧問が最も苦労するところとなろう。

しかし、現状では彼女を除いてこの任にあたれる人物はミャンマーに存在しない。彼女のこの努力を国際社会がバックアップすることこそ重要だといえる。

第三に取り組むべき課題は、第二の課題と深く連関するが、ミャンマー国内で政府と国内外のNGOが協力して、諸宗教間の相互理解と和解活動を広め、特に排他的なナショナリズム感情と反イスラーム感情が融合してしまっている現状を、少しでも和らげる努力をおこなうことである。

アウンサンスーチー国家顧問はこのことの必要性については理解しているはずである。ここでも内政干渉にならないような形で国際社会の関与が求められよう。