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考古学が解き明かす「人類史上、戦争はいつどのように始まったのか」

いまこそ問いたい、知りたい
松木 武彦 プロフィール

私たちの内なる何か

このような生物学的不合理を超え、膨大な数の個体がその場に立つような闘争こそ、「戦争」とよぶにふさわしい。

すなわち戦争とは、そこに参加する多数の個人に、不合理を合理と認知させて命の争奪までおこなわせるさまざまな仕掛けと結果の総体だ。

これらの仕掛けが、いかなるメカニズムによりどんなプロセスで生み出されるかを見きわめる仕事こそ、戦争の始まりを解き明かすことだろう。

仕掛けの多くは、複雑に進化したヒト独特の大きな脳に由来する。たとえば、ヒトの脳は虚構や幻想を創り出し、多人数でそれを共有できる。

〔PHOTO〕iStock

実際の血縁関係をはるかに超え、あまたの人びとを虚構の血縁意識で結びつけた「同胞」や「民族」の概念などはそれだ。

抽象的思考もまたヒトの脳ならではの産物で、目には見えない理屈や制度で不特定多数の人の心や行動をひとまとめにする「国家」というしくみを生み出した。

民族や国家といった概念・組織に対するさまざまな意識や感情――私たちの内なる何か――が、不合理を合理と認知させる仕掛けを作り、動かす源泉となってきた点を注視しなければならない。

防御より攻撃を優先した武装、城壁をもたない古代都市など、命を危険にさらすことを厭わないばかりかむしろ美化するような戦いの様式が発達した日本は、このような仕掛けがもっとも強力に働いた例として注目に値するだろう。

 

このようなことが考えられるようになった今、狩猟採集か農耕か、などといった経済的要件のみに戦争の理由を求めていたかつての考えは、単純のそしりをまぬがれなくなった。

農耕社会に戦争は多いという傾向そのものは依然として認められそうだが、なぜそうなのか、どのようにそうなのかについては、もっと深くて複雑な分析が要りそうだ。

ヒトの脳に深く根ざしたそれらの問題を解き明かすため、いま、世界各地の考古学者を中心に、人類学者、生物学者、認知心理学者などを広く動員して、戦争発生をめぐる学際的研究のいくつかが発足しつつある。まずは十年後の成果を期待したい。