中国で生まれた新たな職業「シェアサイクルの回収人」その実態

メンテナンス兄貴の肉体労働物語
安田 峰俊 プロフィール

以上は、現地紙『工人時報』と『北京時報』が別々に伝えた、シェアサイクル回収員の密着ルポを再構成したものである。取材対象者である梁隊長が異常に仕事ができる人であるため、なんだかカッコいい話みたいに読めてしまうが、気候条件や大気汚染が過酷な北京で1日に2万歩以上を歩き回って自転車を回収する仕事が相当に過酷であるのは想像に難くない。

働くそばからどんどん乗り捨てられていくシェアサイクルと、それを片付ける兄貴。この日は曇りだからまだいいが、炎天下や大雨の日でもやると考えると……。筆者撮影。

北京市内ではofo社だけでも70万台のシェアサイクルが投入されている。私が街で実際に観察してみても、メンテナンス兄貴たちが車両を片付けているそばから、北京市民がひっきりなしに自転車を乗り捨てていく。さながら、「賽の河原」の石積みを思わず連想してしまう業務内容だ。

 

人手不足なのは「キツいから」

上海のメディア『東方網』によると、シェアサイクル産業が中国国内に創出している雇用は約10万人で、そのうちメンテナンス兄貴は3.5万人であるという。企業の中心で研究開発にたずさわるエンジニアの月収が1.2万元(約20万円)とされるのに対して、現場で働く兄貴たちの平均月収は3835元(約6万5000円)ほど。一応そこそこの金額ではあるが、これは北京市や上海市の平均月収の3分の2程度にすぎない。

現地のニュースでは、ofoのメンテナンス兄貴が給与未払いや低賃金に不満を持って微博(中国版ツイッター)で告発している話や、今年6月に天津市内でシェアサイクルのQRコードを故意に塗りつぶしている人に注意した兄貴が相手から殴られて重症を負ったというキツい話も散見される。

先の梁隊長の話からもわかるように、兄貴たちの勤務時間は早朝から深夜までにおよび、肉体的な負担も大きい。ほかに自転車の簡単な修理技術や、担当都市の人の動きについての知識も必要になる。ネット経由で履歴書を送って面接を受けるだけで就ける職業ではあるが、人材定着率はかなり悪いらしい。

広東省広州市石牌橋付近。こんな路地裏にもofo社のシェアサイクルが乗り捨てられているが、いったいどうやって回収するんだろうか。筆者撮影。

『東方網』によると、上海におけるシェアサイクルの数は各社合わせて150万台で、本来必要とされる回収員の人数は、1000台あたり5人必要と計算しても7500人以上。だが、実際の人数は4500人ほどしかいないらしく、深刻な人手不足の状態にある。

結果、的確な回収や修理がなされないシェアサイクルが増え、街の放置自転車問題は深刻になっていく。中国では最近、シェアサイクルの車両が工事用のコーンや建築資材の代わりに使われるなどメチャクチャな利用法も報告されているのだが、これらが横行する一因には、管理の人手が足りないことも関係していると思われる。

かといって、都市部ですでに大衆的な普及を見せているシェアサイクルはサービスとして便利すぎるし、渋滞や大気汚染の緩和に効果があるという客観的なデータも出ているため、中国人民はいまさらこれナシの生活には戻れないのも事実だ。

北京市内。地下鉄の車内で大声で歌いながら練り歩いておひねりを求める歌唄いも、なんと支払いはQRコード決済に対応。シュールな光景だ。筆者撮影。

スマホアプリとQRコードを用いた新時代のスマート社会の象徴とも呼ぶべきシェアサイクル事業は、実は多数のメンテナンス兄貴たちの、泥臭い肉体労働を必要とする構造のもとで成り立っている。この異常なアンバランスさこそ、いかにも現代中国的であると言うよりほかはない。