はあちゅう初の小説集『通りすがりのあなた』の読みどころ

一期一会がくれる小さな気づき
はあちゅう プロフィール

曖昧なものを受け入れ生きる

人は見た目が9割とか10割とかそんな言葉を聞いたりもするけれど、その人が何を背負っているのかは見た目にはわからないことのほうがほとんどです。私も何でもない自分のふりをした日はたくさんあります。

失恋をした日に大事な仕事が待っていたこともあるし、祖父が死んだ日も会社の上司の電話には平然と受け答えしたし、子供騙しに心の中では冷めながら乗っかったことも、恋していない人に恋したふりも経験がある。今にも感情があふれてどうにかなってしまいそうな日も、いろんなふりをしながら、だましだまし生きている。

それは私だけかと思っていたけど、大人になるにつれ、どうやらみんなそうなんだと思うようになりました。病名がつくかつかないか、普通なのか普通じゃないのかなんていう考え方が時に息苦しい。だから、曖昧なものは曖昧なまま受け入れたり、他の人の曖昧さや弱さを断罪せずに受け入れられる人が増えたらいいな、と思っています。

 

初の短編単行本『通りすがりのあなた』には、何でもないふりをしながら一生懸命自分の人生に立ち向かっている人たちの姿を描きました。名前のつかない人間関係や、病名のない病気や、表面からは決して見えない相手の孤独を尊重して生きていこう、という気持ちを込めています。

会社を辞めてしまったTさんに何度も繰り返し聞いたはずの会話の内容は、実は全く頭に残っていません。けれど、残っていないからと言って意味がないかと言えば違う。あの時そういう夜があって、一緒に時間を過ごしたこと自体はとても尊く、お互いの人生に必要だったと思うのです。

私は人生の中の決定的ではないものや、あってもなくてもよいものを見つめる作品をしばらく書いていたい。この作品を書きながら、そんな確信を得ました。

誰かの人生にとって自分は通りすがりの誰かでしかないかもしれないけれど、通りすがらない人のほうが多いんだから、出会えたことには何かしらの意味や縁が絡んでいると思うのです。

通りすがりの出会いを大切にしたい全ての人に、今回の本を読んでもらえたら嬉しく思います。

読書人の雑誌「本」2017年10月号より