「本が売れない」と言われる今、私が本屋になった理由

元大型書店・名物店員の「勝算」
辻山 良雄 プロフィール

人は何かを薦められたがっている

しかしTitleの経営の数字はそれでも順調であり、売り上げ・利益とも当初見込んでいた以上で推移をしています。それは店をはじめて早々に、〈みんな〉を相手にすることをあきらめたのと関係があるように思います。

〈みんな〉を想定して商売をすれば、本を読む人が減っている中では、同じ減少の流れに巻き込まれてしまうでしょう(「こんな時代になぜ本屋を始めたのですか?」と質問してくる人は、このロジックの中にいると思います)。また、ベストセラーに頼るこれまでの書店と同じやり方では、当然規模の大きなもの、資金力があるものが優位になることは避けられません。

 

本はみんなが買うものではないというあきらめは、発想の転換を生みます。Titleには、これまで書店での大きな売り上げを占めていた雑誌やコミックは、一部のものを除きほとんど置いていません。

その代わり、数は少ないですが求める人は必ずいる高額の専門書や、扱う店の少ない個人発行のリトルプレスを多く並べています。そしてその価値を伝えることに多くの時間を注ぎ、こちらが薦める本を買っていただけるような店づくりにしております。

魚屋が店頭に来た人に対し、本日入荷の活きのよい魚をすすめ、花屋がお客さまの意向を聞いたうえで花を選ぶのと同じように、本屋の仕事の本質は、本を紹介することにあります。

Titleでは「毎日のほん」と題して、ウェブサイトで本を毎日紹介するとともに、その日に入荷した商品も、ツイッターでその都度紹介の文章を書きます(さらに言えば、TitleではWEBSHOPもやっているので、その紹介文はWEBSHOPにも同時に使用します)。毎日本を紹介することでTitleという店の姿勢が、選んだ本を通して、見る人に自然と伝わるのです。

撮影:齋藤陽道

「みんな」はTitleが紹介した本に対して関心がないかもしれませんが、その本に対して関心を寄せる人は、近所にも全国にも必ず存在します。現にTitleで売れる本は、世間で売れている本というよりは、Titleが一度は何らかのかたちで紹介した本です。同じ本に関心を持つ人に来ていただき、店頭でもWEB空間でも買っていただくということは、本屋の数が減ってくるであろうこれからの時代においても、さらに重要になると思います。

また、直接お客さまに本を薦めるような機会もあります。実際に店頭で「何かお薦めの本はありませんか」「この子に本を薦めてあげてください」といった問い合わせを受けることもありますし、レジで本を購入されるときに、自然とその本の話になり、気が付けばそれと関連する本を更にお買い求めいただくこともあります。

人は思った以上に、何かを薦められたがっており、従来書店がやってこなかった、こうした対面での販売には、大きな可能性があるように思います。