撮影:齋藤陽道

「本が売れない」と言われる今、私が本屋になった理由

元大型書店・名物店員の「勝算」

9割の人が店を素通りする

東京の荻窪で、「Title」という新刊書店を営んでおります。築70年の古民家を改装した店は、1階が15坪ほどの書店と奥に8席のカフェ、2階がギャラリーとなっています。Titleが開店したのは2016年1月10日ですので、来年には3年目を迎えます。

開店前も開店してからも、取材のたびに「この本が売れない時代に、どうして個人で本屋(なんか)を始めたのですか」と、まず聞かれました。そのたびにもっともらしいことを答えてはいたのですが、そもそも「本が売れない時代に……」ということを、疑いもせず同意してしまうこと自体に問題があるのではないかと思っていました。

 

全体の数字として本が売れなくなったということと、いまここで本を売るという個別の行為とは、まったく別の話です。モノを売るために他の小売では当然行われていることが、本を売る世界ではまだ行われていないという実感が、店を開く前からありました。「Titleでは本を当たり前に売ってみたい。それでも売れないなら、本は本当に売れないものに違いない」と思っていました。

従来の書店は、運営する会社、個人が異なっても、大体同じことを行っていました。本の仕入先である取次会社から自動的に送られてくる新刊本を待ち、多くの人が求めているベストセラーを確保して並べておけば、〈みんな〉が本を読んでいた時代には、売り上げが伸びました。

撮影:齋藤陽道

しかし本以外にも娯楽の種類が増え、〈みんな〉が本を読むわけではなくなった時代には、それまでと同じように待っているだけでは、売り上げも減っていきます。本を読むことがメジャーな趣味ではなくなったことにも関わらず、その時の意識を捨てることができないまま、販売方法を変えることができないところに、本の世界に携わる人が抱えるジレンマがあるように思います。

この「みんなが本を読むわけではなくなった」ということは、私自身も実際に店を開けてみて、痛感したことでした。開店して一番意外だったのは、「自分が思っているよりも、人は本屋に入ってこない」という冷徹な事実でした。

人は自分が好きなものに対して、どうしても贔屓目で見てしまうところがあります。「本屋はファッションの店や雑貨屋よりも入りやすい(と思う)ので、多くの人は本屋を見れば店に入ってくるだろう」と考えていた自分は、よくよく世間のことを知らなかったと思います。

Titleは青梅街道沿いにあり、駅から離れているとはいえ多くの人が店の前を歩いているのですが、そのほとんど、9割以上の人は店を一瞥もせず素通りします。「これがいまの世の中での、本の置かれた位置なのか……」と遅まきながら店を開けてみて実感しました。