「月給9万円」タイのコールセンターで働く30代日本人女性の憂鬱

男娼との子を授かり…
水谷 竹秀 プロフィール

取材の初っ端から度肝を抜かれた私は、この女性との出会いを機に、コールセンターで働く日本人オペレーターの取材にのめり込むようになる。その多くは「アラサー」以上の大人たち。広告代理店や会計事務所、旅行代理店、フリーペーパーなどの職場で現地採用として働く若者たちの眩しい姿とは対照的だった。

ゴーゴーボーイの店頭(筆者撮影)

青山は語る。

「働いている男性はぱっと見オジサンが多いです。学生の時、クラスに必ず1人か2人はちょっと変な子がいたじゃないですか? コールセンターはそれが全員集合したみたいな職場です。日本の若者たちが持っている感覚が欠落したような人が多い。自分も含めてかもしれないですけど、真っ当に生きていける人が少ない。日本社会に適応して、すいすい世の中を渡っていける人はここにはいない感じがします」

バンコクのコールセンターという職場には日本社会のメインストリームから弾き出された、もう若くはない大人たちが集まっているということなのだろうか。青山は言葉を継いだ。

「タイ人の彼女に仕送りしてます、みたいな人。あとはゲイの男性、レズビアンの女性もいます。旅行が好きでここに流れ着いたような人もいれば、タイ人の彼氏がいるから来たっていう人もいれば、適当に海外で働きたいっていう人もいれば……」

極めて単調

「お電話ありがとうございます。○○社の△△です。ご注文ですか?」

ソーラーパネルのような窓ガラスに覆われた高層ビルの20階に入居する、広さ約500平方メートルのワンフロアに、電話応対の声が飛び交う。ヘッドセットを着けた大勢の日本人たちが、等間隔に並ぶ長テーブルに座り、目の前のモニター画面を見ながらカチャカチャとキーボードを叩いていた。

働いているのは確かに日本人だが、ジーパンにサンダル履きといった男性の姿も見られ、襟付きのシャツを着ているビジネスマン風はごくわずか。職場とはいえ緩い雰囲気が漂っている。

とあるコールセンターの所長が説明する。

「服装は何でもOKです。そこは正直うるさく言っていません。金髪でもハーフパンツでもピアスをしていても、電話の対応がちゃんとしていれば構いません」

ネットに掲載されているオペレーターの応募資格は、①日本語ネイティブ②性別・語学力不問③高卒の22歳以上──が条件。それはすなわち「日本語ができれば誰でも勤まる」と解釈できる。だから海外で働くといっても、外国語の能力が必要なわけではなく、日本語だけで対応可能だ。

給与は1カ月約3万バーツで、日本円に換算すると約9万円。もっとも、タイの物価水準を考えれば、普通の生活を送るのには問題ない額である。

しかし、他の現地採用の初任給5万バーツ(約15万円)を下回っていることから、バンコク邦人社会の間では「最底辺」と位置づけられ、大半のオペレーターは引け目を感じながら働いている。さらに業務内容の単調さゆえ、やりがいも感じられない。

 

前出の青山は業務に対する所感を次のように述べている。

「電話は鳴りっぱなしで、ロボットみたいに同じ動作を繰り返していました。でも資格も語学力もない私には、妥当な仕事かなと。タイに来て、一番簡単に働ける職場だと思いました」

一方で、マニュアル通りにこなしていれば残業もなく定時で終了するため、仕事に対する責任を感じなくても済む。服装が自由なことに加え、休日の融通も利くといった職場環境に居心地の良さを感じる者も多く、最底辺かもしれないが、職場としては「安住の地」でもあるのだ。

中にはバンコクの歓楽街にハマって抜け出せなくなり、手っ取り早くバンコクで生活をするための手段としてコールセンターを選ぶ日本人男女も少なくない。