「IQ28」の重度障がい児を育て上げたバツイチバリキャリマザー

我が子が超未熟児に生まれて
伊藤 みかこ プロフィール

健常児と障がい児が一緒に過ごす学童クラブに通うユウゴくんには、たくさんの知り合いがいる。学童の行き帰りに「イトウユウゴくんだ!」と話しかけられたり、ぜんそくで入院すると同じ学童クラブに通う男の子と同室で、一緒に遊んだり……。「本人はしゃべらないから、お友達の話をしないから、私は知らないんですよね」──伊藤さんの知らないところで、ユウゴくんは自分の力で世界を広げつつある。

「隠したい人は隠してもいいと思うんですけど、(私は)周りに『ユウゴくんっていう障がい者がいる』っていうのは別に知っててもらった方がいいんじゃない?って思うんです。そうすれば困ったときに助け合えるだろうし。

例えば道に迷ったときだって、(ユウゴくんには)知的障がいがあるんだなっていうのは分かっているし、どこに住んでいるかまでは分からなくても、学童とか(ユウゴくんに関係のあるところまで)の連れて行き方は分かるでしょ。だから、将来ユウゴが困ったときのためにも、知り合いは多い方がいいんじゃないかなって」

 

人ってちょっと上の組織にいた方がいい

障がいを持つ子どもとその親を対象とした小学校入学前の就学相談で、特別支援校への就学を勧める判定を受けたユウゴくん。1年の就学猶予の後、7歳から通い始めたのは、特別支援校ではなく、区立小学校の特別支援学級だった。

最初は2学年上のお兄ちゃんが在籍している期間だけ、ユウゴくんが4年生になるまでという話だったが、粘りに粘って来春で卒業を迎えるそうだ。しかし、特別支援学級に入った子どもたちが6年間通い続けて卒業するというのはそう簡単なことではない。

「4人くらい辞めていきました。学校の粘り強い説得にあって……」

学校では、毎年のように校長や副校長、担任たちに「特別支援校への就学を勧める判定が出ている場合、そちらに行く方が本人のため。どうか検討してくれないか」とプレッシャーをかけ続けられることに耐えかねたクラスメートたちが次々と転校していった。

読み書き計算が一通りできる子から、授業中ずっと走り回っている子、壁をドンドンたたき続けるようなこだわりが強いタイプの子まで──特別支援校には、さまざまな種類の障がいを持つ子たちが集まっている。転校していったクラスメートのお母さんたちは後日、「(特別支援校に)行かなきゃよかった」「いいことなんて一つもなかった」と漏らしたという。

「健常者もそうだけど、人ってちょっと上の組織にいた方がいいんです」

お兄ちゃんと一緒に。写真:伊藤みかこさん提供

特別支援学級といってもユウゴくんにとって理想の教育環境というわけではない。障がい児への教育を学んだわけでもない、普通の小学校の先生が担当しているため、それぞれの子どもの状況に合わせた教材の使用や、指導を期待できるわけもない。しかし、椅子に座って一定の期間静かにしていることができる、というのは、社会に出るなら絶対必要なスキルだ。

ちょうど模倣が出てきた時期でもあり、ユウゴくんが通う療育の先生も、特別支援校に行くよりは特別支援学級に通う方がユウゴくんのためにいいのではという判断をしていた。「今の環境で不自由なくやれているんだから、何があっても今の学校にいた方がいい」──伊藤さんは、療育の先生のその言葉に一定の説得力を感じた。

ユウゴくんに対し転校を勧めてくる学校と、できる限り特別支援学級に通わせたい伊藤さん。たびたび戦いを繰り広げ、時には教育委員会に訴えかけるなどして、ユウゴくんを特別支援学級に通わせ続けた。伊藤さんは、学校では「すごい気の強いお母さん」で通(とお)っているのだという。その目は、ユウゴくんの未来をずっと見つめている。