福島原発事故、原子炉に届いた冷却水は「ほぼゼロ」だったと判明

事故から5年半が経って分かった
NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

福島第一原発の1号機、2号機、3号機にいつどれだけ水が入り、どのように核燃料はメルトダウンしていったのか、最新の解析コードで分析するBSAF(Benchmark Study of the Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station 福島第一原発事故ベンチマーク解析)とよばれる国際共同プロジェクトが進んでいる。

事故の翌年2012年から経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)が始めたこの取り組みは、世界各国の原子力研究機関や政府機関がそれぞれ所有する過酷事故解析コードを改良しながら、福島第一原発事故の進展と現在の状況を分析する世界最先端の研究だ。

 

その運営を担う機関が東京・港区西新橋にある。エネルギー総合工学研究所。電力会社や原発メーカーのOBに加え、外国人研究者が名を連ねる日本でも有数の研究機関だ。

同研究所原子力工学センターの副センター長の内藤正則は福島原発事故前から日本独自の解析コードSAMPSONを開発し、BSAFプロジェクトの中心的役割を担う人物だ。

2017年2月、NHKでは内藤を含めた専門家を交え、1号機への注水など事故の進展に関する分析を行った。内藤は、BSAFの取り組みを通じて各国の研究機関がシミュレーションから導き出した“現時点で最も確からしい”としている最新の注水量を告げた。

「1秒あたり、0・07~0・075リットル。ほとんど炉心に入っていないことと同じです」

国際機関が検証している最新の注水量。多く見積もっても、1分当たり1・5リットルペットボトルの3本分程度しかない注水量に専門家たちも衝撃を受けた。

5年以上にわたって事故の検証を続けてきた内藤が提示したのは、この章の冒頭でIRIDが原子力学会で発表した数値より具体性を持った数値だった。

生み出された大量の核燃料デブリ

しかしながら、1号機の注水ルートに「抜け道」がなければメルトダウンを防ぐことができたのか? 答えはNOだ。

吉田が官邸の武黒からの指示を拒否し、注水を継続していた局面は3月12日午後7時過ぎのこと。しかし、SAMPSONによる最新の解析によると、1号機のメルトダウンはこの24時間前から始まっており、消防車による注水が始まった時点では、核燃料はすべて溶け落ち、原子炉の中には核燃料は全く残っていなかったと、推測されているのだ。

注水の遅れは事故の進展や廃炉にどのような影響を与えたのか。内藤は「MCCIの進展に関してはこの注水量が非常に重要になる」と口にした。

MCCI(Molten Core Concrete Interaction)は“溶融炉心コンクリート相互作用”と呼ばれ、溶け落ちた核燃料が原子炉の底を突き破り格納容器の床に達した後、崩壊熱による高温状態が維持されることで床のコンクリートを溶かし続ける事態を指す。

SAMPSONによる解析では、MCCIが始まったのは3月12日午前2時。1号機の原子炉の真下の格納容器の床にはサンプピットと呼ばれる深さ1・2メートルのくぼみがあり、そこに溶け落ちた高温の核燃料が流れ込むことで、MCCIが始まった。

それから13時間後。吉田が注水継続を判断した3月12日の午後7時過ぎには、侵食はおよそ2・1メートルまで達していたと推定される。