東大、東北大…国立大学で進む「雇用崩落」の大問題

大学教育の根幹が崩れていく
田中 圭太郎 プロフィール

削減される「運営費交付金」

さて、法人化によって大学にもたらされたのは、財政難だ。

法人化以前の国立大学の予算である「国立学校特別会計」に入れられていた、国の一般会計からの繰入金は、法人化後は「運営費交付金」に引き継がれた。これは、当初は「使途を限定しない」として、大学が自由に使える資金のはずだった。

ところが、「運営費交付金」の額は2010年度までは毎年約1%ずつ減額されたのだ。それ以降も新たな方式が採用されたことにより、交付金は年々減らされている。

その一方で、減額分をカバーするためと称して、「特定運営費交付金」や「プロジェクト補助金」などの名目で予算が計上されるようになった。

「特定運営費交付金」は、使途が決められた、いわばひも付きの予算である。「プロジェクト補助金」にいたっては、使途が限定されるだけでなく、プロジェクトの総額の一部が補助されるだけ。足りない分は大学が「運営費交付金」から持ち出しをしているのが実情だ。

たとえば東京大学の2016年度の交付金と補助金の状況を見てみると、運営費交付金は740億7700万円で、前年よりも41億8000万円減少。施設費・補助金は94億5400万円で、51億5000万円あまり減少している。

おそらく東京大学は、他の大学に比べて「特定運営費交付金」や「プロジェクト補助金」といった競争的資金を最も獲得しやすい大学だろう。それでも1年でこれだけの減額になっているのだから、ほかの大学はそれ以上に悲惨だろう。

この結果、大学が自由に使える金が減っているばかりか、法人化前の国の一般会計からの繰入金に含まれていた教職員の人件費が、「運営費交付金」で賄えなくなってしまった。その減少分をなんとかしようと、そのために人件費の削減が進められているのだ。

東京大学でのケースをみると、全費用のうち人件費は43%となっている。支出の大きな割合を占め、「最も手を付けやすい」人件費が、今後も削減されていくのは間違いない。

法人化で急増した非常勤教職員

法人化以降、全国の国立大学は人件費を抑えるため、正規の職員ではなく非常勤の教職員を多く雇うようになった。そして、彼らは雇用の調整弁として利用される。

東京大学の非常勤教職員で最も人数が多いのは、「短時間勤務有期雇用教職員」と呼ばれるパート教職員だ。パートといっても、フルタイムの非常勤教職員や、正規の職員と変わらない仕事に携わっている人も多い。

同大学の内部資料によると、パート教職員の人数は、法人化以前は1000人程度だった。それが2004年の法人化後に急増。2008年には3300人になり、2017年1月時点では5300人まで増えている。その8割は女性だ。専任教員や正職員が定年退職しても、大学が補充するための採用を行わず、パート教職員に置き換えてきたことが伺える。

この5300人の中には、長年東京大学で働いてきた人も少なくない。しかし、いまのままでは、2018年4月以降、ほとんどが雇い止めされてしまう可能性があるのだ。

さらに東京大学には1200人以上の非常勤講師が勤務しているとみられる。しかし、彼らに対しては「業務委託」という雇用形態を採っていて、労働契約すら結ばれていない。東京大学全体をみると、何ともちぐはぐな雇用形態である。

財政難を凌ぐため、正規の代わりに非常勤職員を多く雇い、そして更なる財政難に見舞われると、彼らを「雇い止め」にする。これでは「使い捨て」、と批判されても仕方がないのではないか。

非正規の教職員の雇用形態が複雑化しているのは、他の国立大学でも同様だ。その理由について北海道大学の光本准教授は「大学の経営陣が労働法規に無知であるため」だと指摘する。

「国立大学法人の経営者は、学部など内部組織の雇用には関知しないというスタンスをとっています。そのため、法律に無知な現場の使用者が、勝手な解釈で非常勤教職員を雇用し、仕事をさせていることもあります。教職員の雇用や労働条件について、守らなければいけない法律を、使用者と教職員がともに学ぶ必要があります」

東京大学をはじめ、多くの国立・私立大学と交渉にあたっている首都圏大学非常勤講師組合の志田昇書記長も、大学の労務担当者が労働法規を知らないケースが多いと話す。

「組合が指摘しなければ、経営陣・運営陣はそれが違法かどうかも理解していない。労務担当者が団体交渉で常軌を逸した発言をして、同席している大学側の弁護士が黙ってしまうこともあります」

結局、国立大学は、国に統制され財源を奪われるなかで、労働法に無知な幹部が違法性を自覚しないまま雇用を崩壊させようとしている。これが雇用崩壊の背景といえそうだ。