「未来のスマホ」iPhone XでAppleはあと10年戦えるか

2つの機種を同時に発表した理由
西田 宗千佳 プロフィール

「ジレンマ」に陥ったビジネスモデル

一方で、iPhone Xは高い。同じようなディスプレイを採用したGalaxy S8も高価なスマートフォンだが、日本での販売価格を比較すると、iPhone Xより2万円以上安く、実売価格ではさらに差がつくだろう。iPhone 8が9月22日に発売になる一方、iPhone Xは11月3日発売。しかも「当面品薄になるのでは」との噂もある。

そもそもアップルは、今回、iPhone Xと同時にiPhone 8シリーズも出している。新しい要素の多いiPhone Xに比べ、デザインに大きな変化のないiPhone 8はいかにも保守的で、「場つなぎ」のように見えるかも知れない。

ただしこのことは、アップルと他社のビジネスアプローチの違いを考えると理解しやすくなる。

 

アップルは世界第2位のスマートフォンメーカーだが、他社とは大きく違う点がある。それは、製品ラインナップが非常にシンプルである、ということだ。多くのメーカーは、低価格からハイエンドまで、多数のモデルを用意することで台数を稼いでいるが、アップルはほとんどを主力商品である「毎年秋に発表するiPhone」で稼ぐ。低価格モデルもあるが、その比率は少ない。

ハイエンドにあたるモデルを、発売と同時期に数千万台一気に販売して高収益をあげるビジネスモデルであり、消費者も「ハイエンドのiPhone」を求める傾向にある。そのため、大量に出荷できることがまず条件になる。また、アップルは、iPhone Xで使う有機ELディスプレイパネルについて、輝度などの面でかなり厳しい注文をつけ、形状でも独自性を出した。その結果、iPhone Xと同じものを「メインのiPhone」と位置づけるのは、かなり難しい状況にあったようだ。

(写真5)発表会は、米カリフォルニア州クパチーノに作られたアップル新社屋内の「Steve Jobs Theater」で開催された。

なにより、今年はiPhone10周年であり、新社屋もできあがる。発表は新社屋内の「Steve Jobs Theater」で開かれた(写真5)。「スティーブ・ジョブズ氏から引き継いだ意思のアピール」(写真6)と「10年を経て変わるべきiPhone」の両方をアピールしなければならない年だったのだ。だから、今年に新機軸の製品を出すことは至上命題だった……と考えていい。

(写真6)発表会の冒頭、クックCEOは「ジョブズ氏から続くモノ作りへのリスペクト」が自社のDNAであることをアピールした。

iPhone 8の「中身」はXと同じ

ある意味で数を稼ぐことを期待されて、保守的に仕上げられたiPhone 8シリーズではあるが、中身は決して保守的ではない。CPUなどのプロセッサーはiPhone Xとまったく同じであり、かなり先進的な作りだ。

iPhone Xでは顔認証に使われた「バイオニック・ニューロ・エンジン」は、本来、AI関連処理を効率的に行うために作られた機構であり、非常に野心的なものでもある。それがiPhone 8にも搭載されるということは、今後のiPhoneでは「AI的な処理を多用する」という方針であることが見えてくる。顔認証と画面サイズをのぞけば、iPhone 8はiPhone Xと同じ「最新のiPhone」そのものであり、実はかなりお買い得な製品だ。

変化と保守のハイロー・ミックスこそが、今年のアップルの戦略の特徴である。スマートフォンを超え、スマートフォン市場を「上書き」する製品が求められているのは事実だが、短期的には困難である。まずは「よりよいスマートフォン」で顧客満足度を高めた上で、AIや顔認証技術などの「次世代への種」を芽吹かせたい……。彼らの発想は、そんなところではないだろうか。