40年前の「奇跡のフェラーリ」その修理にかかる手間ヒマとお金

日本屈指のメカニックが解説
平澤 雅信

再び新車を作り出すように…

さて、もしもこの個体が私の工場に持ち込まれたら、どうするだろうか?

写真を見る限りでは、長期間にわたり動かした形跡が見られないので、おそらく機械部分は、かなり錆の影響を受けているだろう。バッテリーを繋いだ位ではエンジン始動できないのは勿論、ブレーキやクラッチが貼り付き、押して移動させることもままならない可能性が高い。

そんな状態であるこのデイトナを再び走れるようにするために、もしもこの個体が私の工場に持ち込まれたら、どうするだろうか?と、作業内容をできる限り想像してみた。なお、私は板金塗装や皮革の修理など内外装の修正は専門外のため、機械的なことに限ってみたい。

 

そもそもクラシックフェラーリは、例えば定期的なエンジンの調整からして「職人技」に頼る前提の構造のため、「できるメカニック(整備士)」の存在なしでは完調を保てない。この車は更に、休眠期間中に受けたダメージケアとその回復を、車を構成するほぼすべての部品に渡って行う必要があるだろう。かなりレアなケースな上、難易度は相当高い。

眠っていた期間と車の価値からして、「とりあえずエンジンをかけてみよう」などの試みは厳禁である。

クラシックフェラーリは単なる車ではなく、文化財といっても差し支えない。壊れたところを修理するだけではなく、オリジナルを保ちつつ次の世代に伝えること、そしていかに再び壊れないようにするか、という視点が重要になってくる。そのためには、大げさではなく宝石と同様な取扱いの繊細さが要求されるのだ。

そのため、本車両の場合もまずは一度全てを分解し、膨大な消耗品を交換した上で、再び新車を製造するかのように組み立てていくことになるだろう。

具体的には、まずゴム材質の部品は経年劣化が激しく、取り替えなければすぐにボロボロになるので、全て交換である。タイヤ、エンジンのマウント類、ブレーキや冷却水のホース、サスペンションのブッシュが代表的だが、ボディーにも窓の固定やドアのシールに使われており、かなり点数は多い。

燃料ポンプやヒーターのブロアモーター、ラジエーターファンなど、電装系のモーターは全て回らなくなっていると思った方がよい。ブレーキやクラッチを構成する部品も、ほぼ全てが交換になるだろう。