「北朝鮮がどこにあるか知らない人が7割」アメリカのヒドい現実

ニューヨーク大教授の嘆息
ロバート・ボイントン プロフィール

アメリカ国民を最も怒らせた事件

北朝鮮がどこにあるかさえ知らないアメリカ国民だが、核・ミサイル実験のペースがこれだけ早くなると、さすがに恐怖を感じる人が増えてきている。核実験の1か月前に行われた世論調査によると、72%が北朝鮮の核を脅威に感じると答えた一方、トランプがこの状況を打開できると答えた人は35%にとどまった

国民の恐怖感は、北朝鮮よりむしろトランプに由来するものだ。バラク・オバマのような冷静な人がホワイトハウスにいたときは、北朝鮮のいわゆる「予測不能さ」は、大した問題ではなかった。しかし、いまや「予測不能な」リーダーを担いでしまった我が国は、戦争を回避できるのか疑わしい。

 

あらためて、アメリカ国民はいま恐怖を感じている。我らが大統領が、対アジア外交について長期的な政策を考えておらず、また、北朝鮮に対処するための短期的な計画すらも持っていないからだ。

トランプがどんな反応をしてみたところで、金正恩は祖父・金日成(キム・イルソン)が立ち上げ、父・金正日(キム・ジョンイル)が引き継いだ国家計画を、好き勝手に推し進めるだろう。そして、アメリカ・韓国・日本というアジアで最も強固な同盟関係は引き裂かれていく。

しかも、いまこそ同盟国と協力せねばならないこの時期に、トランプは同盟国を攻撃する。北朝鮮の核実験のあと、トランプは「韓国はだんだんわかってきたようだ。私が言ってきたように、北朝鮮との対話による融和など無意味だということを」などとツイートし、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領をあからさまに叱責している。

オットー・ワームビアの遺族会見米送還後に死去したオットー・ワームビアの遺族による会見。報道各社が集まった photo by gettyimages

もちろん、アメリカ国民にとって、北朝鮮との核戦争の脅威など、ほとんどありえない、非現実的な世界の話に過ぎない。しかし、今年6月にヴァージニア大学の学生、オットー・ワームビアが死んだことで、(核戦争はともかく)北朝鮮の脅威は現実のものとなった。

ワームビアについては、2016年1月に北朝鮮を訪問して当局に拘束され、ホテルの部屋からポスターを盗もうとした罪で禁錮15年を言い渡されたこと以外、ほとんど何もわかっていない。拘束から1年半後、彼は意識不明の状態でアメリカに送還され、1週間後に息を引き取った。

ワームビアの死は、この10年間北朝鮮研究を続けてきた私が見たなかで、アメリカ国民を最も怒らせた事件である。若くて将来有望な彼が、こんなに早く死ぬなんて、本当に残念としか言いようがない。しかも、北朝鮮には現在もまだ3人のアメリカ人が拘束されたままだ。

1970年代後半に何十人もの国民が北朝鮮に拉致された日本で、人々がどれほどの喪失感と無力感を感じているのか、アメリカ国民はワームビアの死をもってようやく理解できるところまできた。

これからもアメリカと北朝鮮の対立は続き、核兵器と長距離弾道ミサイルをめぐってより具体的な交渉が行われるだろうが、そこにオットー・ワームビアの死は重くのしかかってくるはずだ。

アメリカ国民はいつまでたっても北朝鮮がどこにあるか学ぼうとしないかもしれない。けれども、今後、北朝鮮について何か知っていることはあるかと聞かれたときに、「ワームビアの死」がその答えの一つになるだろうとは思う。

(敬称略、訳責・現代ビジネス編集部)

ロバート・S・ボイントン
ニューヨーク大学教授。同大学アーサー・L・カーター・ジャーナリズム研究所で「ニュージャーナリズム」を中心に、ノンフィクション論を講じる。ジャーナリストとして『ニューヨーカー』『アトランティック』『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』『ネーション』『ヴィレッジ・ヴォイス』などに寄稿。最新刊の邦訳『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』(柏書房)が好評発売中。

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