普通の人が「疑似科学」にダマされてしまう単純な理由

現状維持バイアスを理解しよう
石川 幹人 プロフィール

現状維持バイアスの対処法

では、こうした現状維持バイアスに対処するにはどうしたらよいだろうか。

まず、私たちには現状維持バイアスがあることを認識し、現状を変えるほうの選択肢の比重を意識的に高めるのがよい。「行動を起こした後悔よりも、行動を起こさない後悔のほうが大きい」というのは的確な格言である。

次に、現状を変えるほうの選択肢を具体化するのがよい。現状が変えられない多くの場合、変えた後の利益やリスクが不明確であることが壁になっている。転職を考えるときには、転職先の待遇や仕事内容について情報を集めるだろう。ときには、転職先の社員に様子を聞くこともある。

がん治療の選択についても同様である。昨今の先端医学ではさまざまな選択肢が用意されており、個々人に応じて副作用の小さな治療を選ぶことも、がんの挙動を見ながら妥当な時期に治療を開始することもできる。必ずしも治療か放置かの2者択一ではないのだ。

最後に、現状維持した場合の最悪の結果を想像することが、決め手になる。「こんなブラック企業はやがて倒産してしまうだろう」という認識が転職を後押ししてくれるのと同様、がんが進行すると手のほどこしようがなくなると、危機を実感することである。

事実、がんの最終段階では体調はひどく悪化して、もはや治療法は残されていない。現状を維持したいなどとは思わず、効果のない民間療法に「わらをもつかむ気持ち」で手を出すようになる人も多い。こう考えれば、治療に期待をもてる今の段階で最良の判断をすべきとなるだろう。

 

バイアスは若者で小さく、年長者で大きい

現状維持バイアスが働くには、重要な前提条件がある。現状が、曲がりなりにもそこそこ生きていけると思える状況にあることである。こうした状況で「現状でいいや」という心が知らず知らずのうちに働き、人々は保守的になるのである。

政治家が現状を改革する画期的な政策を提案しても、現状に危機がなければ、人々は新しい政策を選ばない。現状維持バイアスは、民主主義の思わぬ落とし穴にもなっている。

また、“経営の神様”と呼ばれた松下幸之助(パナソニックの創業者)は、「企業が危機的状況におちいったときほどチャンスである」と指摘している。

社員に現状維持バイアスが働かなくなり、大きな改革に向けて経営のかじを大胆に切れるからである。とくに社員の平均年齢が高齢化している企業は、現状維持バイアスが強くなっているので、なおさら危機感が必要である。

関連記事