対馬のカワウソが、どうやらニホンカワウソではなさそうな「事情」

生物の「領土問題」は難しい
青山 潤三 プロフィール

もうひとつ独自性の強い地域としては、小笠原が挙げられます。小笠原は他の地域と同列に扱うことができない大洋島(大陸棚から切り離された島)であるうえに、かつては大陸島(=大陸と地続きだったことがある島)だったと考えられており、これまた興味深い地史・生物相を有しています。

中琉球と小笠原に次いで特殊な生物相をもつ地域は、意外なことに日本本土(本州・四国・九州)です。といっても、高山などに棲むいわゆる「希少生物」が多いという意味ではありません。日本列島において、より固有性の強い生物は、むしろ人里に普遍的に見られる生物の中に見出すことができます。

北海道の生物は、本州をはじめ日本のスタンダードな生物相から見れば特殊な(ゴキブリがほとんどいないなど)もののように感じられますが、ユーラシア大陸全体に視点を広げると、ロシアやシベリアなどの他地域と共通する部分が多くあります。日本とロシアの中間的な地域と言えるでしょう。

さて、今回のテーマである対馬はどうでしょうか。生物地理学上は、対馬は北海道と似た位置づけになります。対馬の生物相は朝鮮半島の生物相との共通点がきわめて多いのですが、その一方で日本本土とも密接な繋がりを有しています。日本と朝鮮の中間的地域、それが対馬というわけです。

以上のような見取り図を整理すると、

○アジアの東端に、他地域から隔絶した特殊な生物相を示す2つの地域がある。つまり、日本本土(本州・四国・九州)と中琉球(沖縄本島周辺+奄美諸島)である。

○大陸からこれらの特殊な地域への「移行地帯」にあたるのが、北から順に北海道、対馬、北琉球(屋久島など)、南琉球(西表島など)の島々である。

というふうに俯瞰することができます。

 

「ヤマネコ」という先例がいる

対馬が日本と朝鮮半島の「移行地帯」であるという証拠には、どのようなものがあるでしょうか。

おそらく対馬に棲む生物でもっとも有名なのが、「ツシマヤマネコ」ではないかと思います。

ツシマヤマネコは、西表島に棲む特別天然記念物のイリオモテヤマネコよりずっと以前から存在が知られています。同種は大陸に棲むベンガルヤマネコの一亜種であると古くから考えられており、さらに近年ではDNA解析によって、大陸産ヤマネコと亜種のレベルでも区別されなくなっています。要するに、「ツシマヤマネコはベンガルヤマネコの一種である」という見解が確立している、ということです。

ツシマヤマネコ(Photo by Pontafon, CC BY-SA 3.0)

他にも、対馬には朝鮮半島との結びつきが強い種が数多く棲んでいます。例えば植物ではモクセイ科のヒトツバタゴ(俗称は「ナンジャモンジャ」)が、台湾から中国大陸南部を経て朝鮮半島まで広く分布し、対馬にも生息していますが、本州には岐阜県と愛知県の一部でしか見ることができません。

日本では対馬にしか在来分布しない蝶のタイワンモンシロチョウ、ツシマウラボシシジミ、さらには「冬に鳴くセミ」として知られるチョウセンケナガニイニイも、ヒトツバタゴと同様、日本では「ほぼ対馬にしかいない」という不思議な分布様式を持っています。