対馬のカワウソが、どうやらニホンカワウソではなさそうな「事情」

生物の「領土問題」は難しい
青山 潤三 プロフィール

日本は「統一国家」なのか?

さて、「種」の定義そのものに曖昧な部分があるということを踏まえて、次は東アジアの生物地理学における「日本の位置づけ」について考えてみましょう。

前述の通り、生物には海を越えて分布する種がたくさんあります。日本にも、中国や朝鮮半島と共通する生物種が少なくありません。このような観点からは、日本を「日本海周縁地域の南岸」である、というふうに考えることもできます。日本海を、大陸と日本列島に囲まれた「内海」として見るわけです。

日本海を「内海」として見ると、日本列島はその南岸にあたる(Photo by gettyimages)

このような観点から言うと、ある生物が日本海南岸=日本列島のみに分布していればそれは「日本固有種」であり、周辺を覆うように分布しているならば「周日本海固有種」となります。むろんこれらの比率は、後者の方が圧倒的に大きいことは言うまでもありません。

ロシア沿海地方、朝鮮半島や中国大陸北部は、日本海周縁地域の「北岸」に相当します。実際に、中国大陸でも北京周辺の生物には、分類上は日本と共通する種が少なくありません。

さらに、そもそも日本は、歴史的・文化的にはともかく、生物地理学的には決して「統一国家」ではありません。

例えば本州に棲む生物種でさえ、複数の異なる要素が組み合わさって構成されています。例えば、東日本と西日本ではわれわれヒトの血液型の分布が微妙に異なりますし(東日本・東北にB型が多く、西日本にA型が多い)、近年ではDNAの解析によって、これまで一括して「ニホンジカ」だと考えられていたシカが、兵庫県付近を境に異なる分類群となる可能性が示唆されています。私たちが考えるよりも、日本は生物学的には「バラバラ」なのです。

 

日本を7つの地域に分けてみる

そのうえで筆者は、日本を生物地理学的な視点から、7つの地域に切り分けて考えています。

(1)北海道(2)本州・四国・九州(3)対馬(4)北琉球(屋久島をはじめとする大隅諸島)(5)中琉球(奄美諸島・沖縄本島周辺)(6)南琉球(西表島をはじめとする先島諸島)(7)小笠原

この中で、生物学的に著しく特殊な地域が中琉球(先島諸島を除く沖縄県+奄美諸島)です。詳しくは後述しますが、日本各地はもちろん、アジアの他地域とも大きく異なる、世界に類を見ない独自の生物相を構成しています。