北朝鮮の「電磁パルス攻撃」は脅威か?米専門家の懐疑論

恐怖を感じるほど、思うつぼ…?
山田 敏弘 プロフィール

恐怖を感じさせることが目的とすれば…

もうひとつは、そもそもの効果を疑うものである。

ウルジー元長官のように危機を煽る人たちは、過去にあった2つのEMP実験を引き合いに出すことが多い。ひとつは1962年にハワイ近くの太平洋上で行われた核実験で、もうひとつは、ソ連が1962年にカザフスタンで行なった核実験だ。どちらもEMPを生み出して電力や電話線などに被害を与えたとされるが、ハワイのケースですら実際にどこまでの被害が出たのかについては諸説ある。

ハワイのケースは、「Starfish Prime(スターフィッシュ・プライム)」というコードネームで行われた実験だった。冷戦下でソ連のレーダーや通信システムを無力化する目的で研究が行われ、上空約400キロで長崎に落とされた原発の100倍という核爆弾を爆発させた。ところが、一部の信号機が停電したことは確かだが、それ以上の大した影響は起きなかったとも言われる。

また、例えば米議会のEMP脅威評価委員会による2008年の検証で、実際に55台の車両にEMP攻撃を行ったところ、6台のエンジンをかけ直さなければならなくなっただけの被害だった。この実験結果からEMPで「米国民の90%が死亡する」ことはなさそうだと皮肉る専門家もいる。本当にEMPの効果を検証するならば、ハワイや委員会の実験結果について、改めて調査する必要があるだろう。

 

ただ、EMPを使った兵器の開発は世界的にも行われている。実は日本でも研究は始まっており、前出の防衛省関係者は、「今のところ、世界でもEMPを攻撃に使うEMP弾の研究はされていても、実用化されていないし、すぐに導入される可能性は低いでしょう」と話す。その上で、「防衛省としては2020年には試作弾の完成を目処にしている」と言う。

EMP弾は近い将来にも現実となる可能性がある。だが、現段階ではその効果がどこまでのものかは実は疑わしいところがあるうえ、こと北朝鮮に関しては、存亡のかかった瀬戸際で、そのような不確実な戦術に頼るはずはないだろう、ということだ。

むしろ彼らの狙いは、アメリカや日本の恐怖心をあおることの方にあるはずだ。北朝鮮の「EMP攻撃が可能だ」という挑発に過剰に反応するのは、彼らの「思うツボ」なのである。