「日本人=集団主義」論という危険思想

こんなに大きかったビジネスへの衝撃
高野 陽太郎 プロフィール

将来への脅威

日本人が、じっさいには、とりたてて集団主義的ではなかったのと同様、日本経済も、じっさいには、とりたてて集団主義的というわけではなかった。

しかし、日本でもアメリカでも、「日本人=集団主義」論が広く信じられていたせいで、「集団主義的な日本経済」を批判する「日本異質論」は、燎原の火のごとく、またたくまに燃え広がった。その結果、日本経済は、深刻な痛手をこうむることになったのである。

経済も、人間の営みである以上、「人が何を信じ、その信じていることについてどういう感情を抱くか」ということと、決して無縁ではない。

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日米貿易摩擦は、過去の出来事である。しかし、アメリカでは、トランプ大統領が日本にたいする貿易赤字を問題にしはじめている。この問題に火がついたときには、「日本異質論」が、貿易制限を正当化する理屈として、ふたたび持ちだされることになるかもしれない。その可能性は、決して低くはない。

アメリカ人が「個人主義」を誇りとしている以上、「日本人の集団主義」は、日本人にたいする反感を煽るための火種として、いつでも利用される恐れがある。

 

日米貿易摩擦に先立つこと数十年、太平洋戦争のさなかには、アメリカの反日プロパガンダ映画が「日本人の集団主義」を糾弾していた。日本人は、「ひとつのネガを焼き増した写真のように、個性を欠いた人間の集まりだ」とまでいわれていた。

アメリカとのあいだに、一朝ことが起こるや、またもや「日本人=集団主義」論が脚光を浴び、猛威を振るって、日本は深刻な被害を受けることになりかねない。

アメリカが超大国でありつづけるかぎり、「日本人=集団主義」論は、日本人にとっては、この上ない「危険思想」なのである。

【参考図書】
小池和男 『仕事の経済学(第3版)』 東洋経済新報社 2005年
髙野陽太郎 『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』 新曜社 2008年
野口悠紀雄 『1940年体制 ― さらば「戦時経済」』 東洋経済新報社 1995年
三輪芳朗 『計画的戦争準備・軍需動員・経済統制 − 続「政府の能力」』 有斐閣 2008年
三輪芳朗 & J・マーク・ラムザイヤー 『日本経済論の誤解 ― 「系列」の呪縛からの解放』 東洋経済新報社 2001年
三輪芳朗 & J・マーク・ラムザイヤー 『産業政策論の誤解 ― 高度成長の真実』 東洋経済新報社 2002年