「北朝鮮危機」日本が全外交力を投入して実現すべき一つのこと

いまこそ、ガラパゴス平和論をこえて
篠田 英朗 プロフィール

アメリカを中心とする諸国からすると、北朝鮮の核保有及び核兵器運搬能力の保有は、認められない。北朝鮮の核開発を止めることが、諸国の「目的」である。自国の安全という崇高な「目的」に照らして、北朝鮮の核開発は、巨大な脅威である。したがって止めさせなければならない。

この「目的」に錯誤はないか。ガラパゴス平和主義の観点からは、気になるところだろう。寛容に北朝鮮を核保有国として認め、核保有国・北朝鮮と付き合っていくことはできないのか。

だが、北朝鮮のような孤立し、冒険主義を好み、核不拡散体制にも入っていない国が、野放図に核開発を続けることの危険性は甚大だ。北朝鮮の核放棄という「目的」の設定は、適切だと考えるべきだろう。

ただし、脅威の度合いが深刻であることは、北朝鮮の側に、核を放棄しないインセンティブが強く働いているということでもある。脅威が大きいと感じられているので、アメリカは簡単には北朝鮮を攻撃することができないだろう、と考えることができる。

北朝鮮は確かな「抑止」効果を感じることになる。そのような絶大な効果を持つ手段を、開発してから後、容易に手離すはずがない。

なぜ北朝鮮はアメリカに対する「抑止」のための手段を求めるのか。自国の存続のためである。

1953年に休戦に至った朝鮮戦争は、未だ終結を迎えていない戦争であり、北朝鮮と韓国は64年間にわたりにらみ合い続けている。その緊張状態の継続を支えていたのは、超大国が対立してにらみあう二極分化の「冷戦構造」であった。

つまり北朝鮮の背景に、ソ連そして中国がいたために、アメリカも韓国も手出しをすることができなかった。ただしソ連と中国に依存する国家の存続は、いかにも脆弱である。北朝鮮は、冷戦期から一貫して、核開発を模索していた。

その北朝鮮にとって、冷戦の終焉は、自国の安全保障環境に大きな変化がもたらされるはずの巨大事件であった。もはやソ連は存在せず、中国も革命の輸出などよりも経済成長に関心を持つ国に変質していった。

どうやってそのような冷戦終焉後の環境の中で、弱小国・北朝鮮が、自国の存続を確保できるのか。核武装以外にはない――これが、北朝鮮の答えであった。

アメリカを含む周辺国は、北朝鮮の核開発に防衛的要素があることに鑑みて、交渉を通じて核開発を放棄させる努力を払ってきた。1994年のアメリカと北朝鮮の間の枠組み合意は、事実上、アメリカが一定の「体制保証」の姿勢を見せることと引き換えに、北朝鮮に核開発を停止させるものであった。

 

チキン・ゲームの本質

しかし北朝鮮のような異常な性格をもつ国家が、一時的で表層的なアメリカとの合意によって、永久の安定を確信することはなかった。北朝鮮はその後も核開発を続け、2005年には核保有を宣言するに至る。

なぜ北朝鮮は、アメリカや韓国からの直接的な軍事侵攻の脅威がなかったにもかかわらず、核開発を続けて対立の構図を深めたのか。

「対テロ戦争」の時代に突入したアメリカのブッシュ政権時代の対外冒険主義、小泉訪朝以降の日本の北朝鮮への態度の硬化、などの動きを、時系列的に並べていくことはできる。

だが結局は、北朝鮮が、経済的破綻の瀬戸際まで陥り、外部からの軍事侵攻なくしても崩壊し得る国家であることが明白になったことが大きいだろう。

周辺国の関係者は、北朝鮮の自然崩壊を予測し続けた。北朝鮮にとっては、外部からの資金を獲得し、独立の維持を図るためにも、脅威を継続的に演出することが必要であった。脅威が継続的に深刻視される限りにおいて、周辺国は北朝鮮に融和的な政策をとる。相手に売りつけるものがなくなってしまえば、ゲーム・セットである。

他方、周辺国にしてみれば、どれだけ融和政策をとったとしても、必ず北朝鮮はあらためて脅威を作り上げ、さらなる融和政策の実施を求めてくると感じざるを得ない。いたちごっこの徒労感に襲われ、ゲーム・セットを狙って北朝鮮の脅威に対抗する防衛手段を充実させることになる。脅威の演出ゲームは、何度も繰り返され、実際に脅威の深刻度がどんどん高まっていく。チキン・ゲームである。

特に北朝鮮がほぼ核開発に成功した今日においては、「体制保証」は、周辺諸国の口約束によってではなく、核兵器がもたらす「抑止」によって図る、と北朝鮮指導部が考えたとしても、何ら不思議ではない。北朝鮮という国家の脆弱性こそが、核への依存の根本的な原因なのだから。

だが核開発によって、北朝鮮は、積極攻勢に反転していくかもしれない。「瀬戸際外交」を続けてきた北朝鮮は、核兵器運用能力を高め続ける。それによって自国の存続を確保するだけでなく、闇市場での武器取引などを活発化させ、外貨を獲得して、体制維持のための基盤としようとするだろう。

テロリスト勢力に武器・技術を売却しないと期待できるわけでもない。アメリカを中心とする諸国にとっては、「対テロ戦争」の帰趨にも影響しかねない深刻な事態である。