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霞が関で「開成官僚」VS.「麻布官僚」大戦争が勃発中

受験エリート「トップ2校」が罵り合い

橋本龍太郎や福田康夫を生んだエスタブリッシュの麻布は、規格外の官僚をも生む大らかさがある。かたや「秀才型」の開成は、鉄の結束で霞が関を支配しかけている。両校OBの官僚の暗闘を追う。

開成は「群れるのが好き」

2017年8月、発起人代表に「政調会長・岸田文雄」と銘打たれたパーティの案内が霞が関の一部の官僚に送付された。

「永霞会(永田町・霞が関開成会)(仮称)設立総会のご案内」だ。

送付先は名門・開成高校出身の国会議員とキャリア官僚、総数600名以上。「ポスト安倍」を窺う岸田文雄政調会長は、もちろん開成出身だ。

「長年の野望だったんです。せっかく各省庁で開成出身者の飲み会をやっているんだから、開成全体で集まる機会があってもいいと思いましてね」(事務局を務める元建設官僚・井上信治代議士)

岸田文雄Photo by GettyImages

開成のライバル校・麻布高校出身の現役官僚はこう突き放して言う。

「また開成が群れてるらしいですね。政局が動いているこの時期に、岸田さん発起人で霞が関全体のパーティをやるなんて、全体主義の開成らしいですよ。

僕の省なんて、10年以上麻布OBの会なんてやってないのに、開成は毎年どの省でもやってる。どこまで群れるのが好きなんでしょうか」

36年連続で東大合格者数日本一を誇る進学校・開成にとって、永遠のライバルは麻布だ。

今年の東大合格者数では開成が161名、麻布が79名。同じ東京に位置し、中学入試が同日の2月1日に行われるうえ難易度はほぼ同程度。しかし両校には校風に極端な差があるため、お互いを意識しやすい。

中高時代のライバル関係は、やがてキャリア官僚になっても変わらないどころか、最近それが激化している。

麻布OBの前文科事務次官・前川喜平氏が記者会見を行ったとき、開成OBの総務官僚は舌打ちしてこう言った。

「また政権に弓引いてさ。これが麻布の典型だよな。空気を読まないで」

開成には「開成会」と呼ばれる同窓会組織がある。「ニューヨーク開成会」「外科学会開成会」のように居住地や職種で区切った開成会もあるのだが、「丸紅開成会」や「JR東日本開成会」といった勤務先別の会もある。とりわけ目立つのが、霞が関の省庁別の開成会だ。

麻布に上下関係は存在しない

ネットワークは、霞が関の省庁に張り巡らされている。財務省開成会(68名)や警察庁開成会(46名)から、小さいところでは内閣情報調査室開成会(4名)にいたるまで、あらゆる省庁で開成会が結成され、定期的に会合が持たれている。

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これがライバル・麻布官僚を苛立たせるのだ。

「連中はしょっちゅう省の食堂や共済会館で開成同士でつるんでるんですよ。先輩が次官就任だなんだってね」(麻布官僚)

2017年7月の「財務省開成会」では、元事務次官の武藤敏郎、丹呉泰健ら計30名の現役・OB官僚が出席した。丹呉は現在、開成学園長も務める。

「ときには政治課題の話になりますが、もっぱら、命をかけて戦った運動会の棒倒しの話に花が咲きますよ。五十嵐貞一さん(元審議官)、武藤敏郎さんの音頭で、毎年1回開いています」(元財務官僚・長崎幸太郎代議士)

2016年3月に開かれた「岸田外務大臣を囲む外務省開成会」の場合。外務省勤務の開成OBのうち在京の職員26人全員が出席、大臣官房総務課長(当時)の小野啓一司会のもと、岸田氏が冒頭に挨拶。全員が自己紹介して懇談し、校歌を岸田氏とともに歌って散会した。

これら霞が関の開成会とは別個に、国会議員の開成会「永田町開成会」も存在する。前出の井上氏が言う。

「開成OBの国会議員9名で組織しています。トップが岸田政調会長で、僕が事務局長ですね。当初は財務省に開成出身者が多いこともあって、毎年1回、財務省の開成OBとの定例の飲み会を(財務省開成会とは別に)やっていました。他の省庁とも、3~4年に1回、合同で飲み会をやっています。

会では開成時代の話が多いですね。運動会の話はもちろん、あの先生はまだ生きているんだろうかといった話で盛り上がります。もちろん政治家と官僚だから仕事の話もしますよ。仕事に活かせるいいネットワークだと思います」

これを発展させたのが冒頭の「永霞会」だ。

麻布官僚の世界では同窓会活動は盛んではない。麻布OBで元経産官僚の牧原秀樹代議士が言う。

「麻布の人は群れませんからね。開成のように、役所と政治家が一緒の同窓会をやることはない。

麻布初の総理になった橋本龍太郎さんを中心に作られた『麻龍会』(現『麻立会』)がありますが、麻布出身の政治家を支える会であり、霞が関とのつながりはありません」

橋本龍太郎Photo by GettyImages 橋本龍太郎

元経産官僚の古賀茂明氏も続ける。

「経産省では、広瀬勝貞さん(現・大分県知事)が次官だった頃は『麻布会』という同窓会を毎年やっていましたが、しばらくしたらなくなりましたね。麻布では上下関係というのがほとんど通用しないんですよ」

古賀氏は前川氏と並び「安倍政権に弓を引いた」と言われる麻布OBだ。

「麻布ではサッカー部でしたが、中学2年生のときに、3年生に『自分たちのほうが強い。3年と2年で試合をやって、勝ったほうが大会に出よう』と提案しちゃうような学校です(笑)。下克上の世界ですよね。秩序を嫌い、権威に対抗する」(古賀氏)

開成OBで元財務官僚・小林鷹之代議士の次の証言とは対照的だ。

「開成は上下関係がしっかりしているので、先輩を敬わねばならない。僕は一浪して大学に入ったので、大蔵省時代、直属の上司が開成の後輩ということがありました。相手もやりづらそうで、やっぱり上下関係は変わらないなと思いましたね」

秩序を重んじ、群れる開成。秩序を嫌い、群れない麻布。校風の違いは大きい。

開成は、一言でいえばバンカラだ。毎年の運動会のために、半年がかりの練習を続ける。下級生への指導は高3があたるため、上下の結束は異様なまでに強まる。5月第2日曜日の運動会終了後に、中1と高3が号泣しながら健闘をたたえ合う情景は、開成の風物詩だ。

「5月の運動会が終わってから本格的に勉強をはじめ、東大に200人近くが合格する。この要領のよさというのは、開成の環境でないと得られなかったと思う。麻布はチャラチャラしてるだけで、結局芯がない連中の集まりですよ」(開成官僚)

前川喜平vs.北村滋

一方の麻布は独立独歩だ。都心・広尾に位置し、付近には東洋英和女学院などの女子校も多数。『遊び人』の生徒も多い。

「制服を着るのは入学式当日だけで、私服通学。廊下に灰皿も置いてあって、教師の前でタバコを吸っても怒られなかった。

校則らしき校則なんて何もなかったです。麻布の同級生はいろんなタイプがいて、勉強ができるだけでは褒められない。開成は西日暮里のガリ勉学校で、運動会みたいなマッチョ志向でダサいイメージですね」(麻布官僚)

結果、両校が生んだ官僚は明らかに対照的だ。

開成から大蔵(財務)次官には、戦後5名を輩出している。そのうち森喜朗政権で次官を務めた武藤敏郎氏はもっとも有名な官僚の一人だろう。

「バランス感覚にすぐれた、チームプレイ型の官僚ですね。その点が森元総理にも気に入られ、五輪組織委の事務総長にまで選ばれた。何度も日銀総裁候補となりましたが、調整型の古いタイプの官僚です」(政治部デスク)

この7月の人事で経産次官に昇格した嶋田隆氏も開成OBだ。

「控えめな性格ですが、人望は厚い。与謝野馨氏の側近中の側近として幾度も秘書官を務め、東電改革を推し進めた」(同)

財務次官を務めた故・香川俊介氏と開成で同期だったのが、「官邸のアイヒマン」との異名をとる北村滋・内閣情報官だ。「内閣情報調査室開成会」の主宰者でもある。

「頭脳明晰で、安倍総理から絶大な信頼を得ている。内調を牛耳り、メディアも使って数々の情報戦を仕掛けている人物です。前川前文科次官の『出会い系バー通い』報道を読売にリークしたのも北村氏のラインだ」(同)

そう、最近の麻布官僚といえば前川氏だ。加計学園の獣医学部新設問題で、「行政がゆがめられた」と明かした異色の官僚だ。'73年に麻布高校を卒業した前川氏が語る。

「麻布という学校は非常にデタラメな学校でした。自由を通り越して放埒、無秩序、無法地帯ですね。

特に私がいた6年間のうち、ほとんどの期間は学園紛争でした。ヘルメット姿の人たちが暴れ、弾圧的な校長代行と教員が対立していた。高2のときに学校がロックアウトされ、友達と信州旅行をしたのを覚えています」

麻布では何を学んだか?前川氏が続ける。

「ほとんど何も教えてくれない。非常に保守的な先生もいれば、明らかな唯物史観を教えている世界史の先生もいる。いろんな人がいろんな考え方でやるというカオスな環境。

そこで培われたのは、自分以外は信じられないという考え方でした。今ある秩序や権威を相対的に見るという見方ができるようになったのです」

 

麻布で前川氏の1学年下が、前出の古賀茂明氏だ。ともに'70年代前半の麻布の学園紛争を経験している。古賀氏が言う。

「前川さんは『面従腹背』と言っていましたが、相手が威張っているのを見ると抵抗したくなる『麻布のDNA』があったのかなという気がします。

麻布の学園紛争の過程では、生徒たちが退陣に追い込んだ(山内一郎)校長代行は、後に横領と詐欺で逮捕されます。権力は悪いことをやるものだという感覚を、いつでも持っているんですね」

開成と麻布の違いは?

「開成はバンカラな旧制高校というイメージです。一概にはいえないが、運動会に命を懸けるみたいなところがあって、組織重視という感じかな。それと、トップを目指すという印象も強い。

麻布は組織の規制を極端に嫌う。校則はないし、僕たちの年代では、運動会も実行委員会が分裂したり、修学旅行も意見がまとまらず学年全体では実施できなかった。上を目指す感じはゼロ。ふざけてるやつが一番偉いという文化がある。

麻布の先生は『東大合格者数1番なんて絶対ダメ』と話していた。次官なんて、僕らからしたら超ダサい」(古賀氏)

組織の開成、個の麻布

厚労省年金局長だった香取照幸氏も麻布出身だ。

「年金局長の時に塩崎恭久厚労相(当時)と激突。塩崎大臣が進めるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革をめぐって怒鳴り合いの喧嘩をしました。

次官就任の目が消え、いまはアゼルバイジャン大使です。弁が立ち、人を論破するのが得意だが、それが仇になった。厚労省で開成の一番の出世頭は樽見英樹官房長ですが、樽見氏は調整型なので、好対照ですね」(開成官僚)

香取氏もアウトロー官僚といっていいだろう。

元農水官僚の開成OB・鈴木憲和代議士は、余裕の表情でこう語る。

「官僚になると組織として動くので、チームワークがある開成出身者のほうが重宝される流れになっている気がします。最近、麻布出身者で政権批判をする人もいますが、自分が目立ちたいだけなんだと思います。開成出身者には、そういう発想はありませんから」

冒頭の「永霞会(永田町・霞が関開成会)」結成には、「開成から総理を出そう」という開成OB・渡邉恒雄読売新聞主筆も関与しているという。

「ナベツネさんが岸田をかつぎ、膨大な開成OBの官僚が支えるという構図に注目しています。安倍総理べったりの北村滋氏が、『霞が関岸田派』ともいえるこの会に現れるのかどうかも関心がありますね」(政治部デスク)

会の事務局を務める元大蔵官僚の鈴木馨祐代議士は「岸田さんが呼びかけ人になったのは、政調会長だし据わりがよかっただけ」とその構図は否定する。だが永田町雀からすれば、ポスト安倍政局に多少なりとも影響するのがこの会なのだ。

それに引き替え、省庁別の同窓会名簿すら完全に整備されていない麻布官僚は、独立独歩。開成官僚にとってはいつ歯向かうかわからない、不気味で危ない相手だ。

ある開成官僚は、忌々しげにこう語る。

「彼らには個があるんですよ。それが僕らには怖い。個人として独自の世界に生きているようだ」

開成官僚と麻布官僚の大戦争は、まだまだ始まったばかりだ。

「週刊現代」2017年9月16日号より