赤ちゃんに障害が見つかったある家族の決断【ルポ・出生前診断】

すべてを正直に、話します
NHKスペシャル取材班, 野村 優夫

不安を無理に消そうとしなくていい

妊婦さんの中には「健康な赤ちゃんが生まれてくるかどうか、100%確かでないことが心配」という人がいるかもしれません。また、こうした不安が検査を受けてもなかなか消えないということがあるかもしれません。

自分の努力ではどうしようもないこと、どうなるかわからないことに対してどこまで耐えることができるのかは、人によって大きく異なります。

特に、耐える力があまり強くない人の場合、もし検査で異常が見つからなかったとしても、「心臓や肺は大丈夫か、脳は大丈夫か、手足に障害はないか、外見上は正常でも臓器は正常に働いているのか……」など次々と不安が押し寄せてくるように感じることもあります。

加えて、妊婦さんには、つわりをはじめとした体調不良も起こりますし、ごはんも食べられず体力が消耗していく場合もあります。そうなると、元気がなくなって何もかもうまくいかないように思えることもあるでしょう。

そんなときに、夫から「そんなに心配するなよ。大丈夫だよ」などと言われたりすると、「自分には味方がいない」と感じてしまい、ますます不安が募ることもあるのだと、遺伝カウンセラーの田村智英子さんは言います。

そんな妊婦さんに対して、田村さんは「不安を消そうとする必要はありません」といつも声をかけるそうです。

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「この世にいなかった命を育み、そして産むのは大変なことなので、不安になるのは当然なんです。『あなたはおかしくないのです』と妊婦さんには言いたいです」

田村さんのもとを訪れる妊婦さんのほとんどは、田村さんに十分に話を聞いてもらうだけで、心が落ち着いていき、自分が次にどんな行動をとるべきか考えられるようになっていくと言います。

夫でも親でも友人でも遺伝カウンセラーでも、自分の心を十分に受け止めてくれる相手を探すことが重要なのだと思います。

障害があってもなくても

お腹の中の赤ちゃんに病気や障害のあることがわかったとき、「この子と本当に一緒に暮らしていけるのだろうか」という思いが心を覆い、不安になる人は少なくありません。それが、産むのかあきらめるのか、と悩む大きな原因の一つです。

日本には、病気や障害のある子どもを支えるさまざまな制度や取り組みがあります。それでも不安が拭えない人に対して、「『子どもへの期待』を手放すのが子育てではないでしょうか」という考え方を発信している人がいます。

日本ダウン症協会の代表理事をつとめる玉井邦夫さんです。玉井さんは、家族会の活動をするほか、大正大学の教授として、障害児の心理や被虐待児と家族の支援のあり方などについて研究を重ねています。

「ダウン症について話していると、『きれいごとばかり言ってはいないか?』というご指摘を受けることが度々あります。確かに、どんなに『ダウン症があっても素晴らしい』といっても、さまざまなサービスを利用しなくてはいけないのは事実ですし、親の不安が完全になくなるわけではありません」

「また、障害のある子どもが生まれてきたとき、親は大変な衝撃を受けます。私もそうでした。こんな子育てをしたい、こんな家族を作りたい、という願いが、一気に崩れたように感じました」

「でも、成人になるまで、親の期待を1回も裏切らない子どもはいません。通常であれば、一枚一枚薄皮がはがれるように、親は子どもへの期待を手放していきます」

「しかし、子どもに障害があるとわかった親の場合は、それを一度にしないといけない。でも、結局は、どの親でも子育ての過程で行うことです。人は誰もが一人では生きていけませんし、誰かの手助けを必要としない人はいません。だから、本質的に、障害のある子どもと暮らすということが、ほかの家族と違うとは、私は考えません」

出生前診断で赤ちゃんに病気や障害があることがわかって悩んでいる人へは、どんなアドバイスがあるか、聞いてみました。

「つらいかもしれませんが、迷っているなら、自分が頼れると思える、なるべく多くの人に相談してみてはどうでしょうか。揺れる気持ちを他の人にオープンにするのは苦しいという人もいるかもしれません。たくさんの意見を聞くと、かえって悩みが深まってしまうのではないかという人もいるかもしれません」

「でも、今悩んでいるなら、どんな決断をしても、無傷ではいられません。だとしたら、『自分はこれだけ悩んだんだ。これだけの人に関わってもらったんだ』という事実が次の生活を作っていくと思います」

「『決断』に対する納得は、多くの人の意見を聞いて、いろいろな価値観に触れ、自分なりにそれを消化しながら考えていったほうが、高まるのではないでしょうか」

「決められなくなるからと、ほかの人たちの意見から目を背けて決断したことが、その人らしい結論になるかどうかはわからないじゃないですか。私は、多くの価値観に触れて、そのうえで決めることをお勧めしたいです」

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