知られざる戦前「エロ本検閲」の実態〜検閲官はブラック労働だった

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辻田 真佐憲 プロフィール

検閲官のエロ本レビュー

せっかくなので、その例をみてみよう。先述した「出版警察報」には、発禁処分された出版物と、問題とされた箇所と、検閲官のコメントが乗っており、とても参考になる。

安寧秩序妨害は取り上げられることが多いので、ここでは風俗壊乱に注目する。エロ・グロ・ナンセンスが流行した昭和初期は、風俗壊乱こそ検閲の主役だった。

まず、わかりやすい事例から。『男色考』『変態黄表紙』『奇書』などの書籍は、タイトルからして露骨なので、詳しい説明は必要あるまい。

引用される箇所も、「その[男色の]方法は股姦(俗にスマタとも云ふ)及び相互的手淫で、鶏姦にまでは至らなかつた」「淫水が滲出してグチャグチャと音を立てた」「妻が罵声を張り上げるだけ彼れは一層の快感を覚え煙管で殴打られるよりは棍棒でなぐらるゝ方が心地よきを感じ」などと目も当てられない。

検閲官は、「筆端露骨淫卑に渉る」「全体に純淫本」「変態性慾に関する記述其他煽動的猥褻なる箇所多き」と一刀両断である。

 

これにたいし、やや読み込みを必要とする例も少なくなかった。

その最たるは、伏せ字を用いたものである。伏せ字の多くは出版社側が発禁処分を回避するために自主的に付けたものだが、それがかえって読者の推断を誘発するとされた。

もちろん、見るからに卑猥なものもある。『観相学奥秘伝全集』上巻の「男子の○部」「○○の亀頭を玉珠と謂ふ」などがそうだ。これではほとんど伏せ字の意味がない。

そのいっぽう、『うきよ毎日』1928年12月号の「お腹を撫でゝゐる時○○○○○○○○○○○○○○○○○ビクリビクリとして、動悸が高くなつて○○○○○○○○ではありませんでした。しかしそれも施術といふから○○○○○○○○○○○○○○○○ジッと我慢して居りました」などは、もはやなにがなんだかわからない。

前後を読むと、どうやら不妊に悩む婦人が、あやしげな魔術師になにかをされ、その後妊娠にいたったようである。

とはいえ、ここは卓越したエロ本読解者である検閲官。「或る魔術師より如何わしき迷信的姙娠施術を受けたる婦人の告白記事にして、麻酔中に強姦したること容易に想像し得る」と断定し、発禁処分を行った。