「米中が組んで北朝鮮を討つ」そんなシナリオさえ現実味を帯びてきた

利害は案外一致している
津上 俊哉 プロフィール

「体制存続の保証」後

北朝鮮の核ミサイルは早晩完成する、これを阻止する軍事オプションは実行困難、というゲームの骨格が当面、変わらない中で、今後いちばん大きな変数は、核ミサイルを完成させた後の北朝鮮がどのような振る舞いをするか、だ。

仮に膠着状態に入った後の北朝鮮が静かに平和に暮らしてくれるなら、日本国民はミサイル騒ぎを忘れるだろう。しかし、北朝鮮が核ミサイルをテコにして外交的、経済的な望みを強圧的にかなえようとしたらどうなるか。

 

この国の過去の行状を振り返ると、民間航空機爆破テロ、韓国大統領暗殺を狙った他国における爆弾テロ、日本人や韓国人多数の拉致、麻薬や偽札などの禁制貿易と「何でもあり」だった。それに、あの貧しい国が核ミサイルにこれだけ投資したのだから、どこかで投資の回収を図ろうとするだろう。

「体制存続の保証」を手にして「やりたい放題」、周囲はそれを止める術がないなどという事態は、想像するもおぞましい。

さらに大量破壊兵器をテロ国家に輸出する、「南北朝鮮統一」を核の威嚇でゴリ押しするといった事態にまで至れば、いよいよ「この体制をこのまま生かしておいて良いのか」という深甚なる疑問が浮かぶだろう。

米中連携による軍事オプションの可能性

筆者は近著『米中貿易戦争の内実を読み解く』で、北朝鮮問題がいよいよ深刻化した場合の究極の選択として、中国と米国(を核として露や韓が加わる有志国連合軍)が手を組んで北朝鮮に武力進攻する事態を想定した。

誰も論じない空白のオプションだ。「それくらい非現実的でトンデモな論議」と言われるかもしれないが、「頭の体操」として聞いてほしい。

最初に断っておくと、中国は内政に数多くの不安定要因を抱えるので、「安定」を非常に重視する。2012年の尖閣国有化事件のときも「日本と戦争になるのではないか」という不安で物資の買い占め騒ぎが起きたくらいだから、陸続きの北朝鮮と戦争をするなどというのは、是非とも避けたい最悪の事態だろう。

しかし、「最悪の事態が起きたらどうするか?」の頭の体操を怠らないのは、中国人の偉いところであり、我々がこのオプションを「ありえない」と即断するのも誤りだと感ずる。

筆者がこの可能性を考える最大の理由は、軍事オプションは米中が協力しない限り成功しそうもないからだ。中国単独の武力行使については、拙著で可能性を否定した。理由は「中国が(朝鮮侵略の)悪役を一人で引き受けることはない」と思うからだ。

米国の単独行動は韓国や日本への報復の恐れがあって難しい。報復を招かない限定的な攻撃では金正恩を断念させられないし、米国の単独行動は中国の疑心暗鬼を招いて、北朝鮮に付け入る隙を与えてしまう点も問題だ。

「米中が協力すれば必ず成功する」保証もないが、米中から挟み撃ちされる「まさか」の事態は北朝鮮軍の士気を削ぐだろう。

「米中連携」軍事オプションに寄せられるであろう疑問については、次のように考える。

1.「北朝鮮=中国に不可欠な緩衝地帯」論について

前述のとおり「それで北朝鮮をつけあがらせて、モンスターにしてしまった」という反省と危機感が強まっており、「不変の前提」ではなくなりつつある。

加えて、最近米国では「緩衝地帯がなくなることを心配して動こうとしない中国を本気にさせるために、在韓米軍撤収を検討するべきだ」という専門家の声が聞かれるようになった(マイケル・スウェイングレアム・アリソンら)。

これは中国が軍事オプションに踏み切るために必要な条件の1つでしかなく、米国からそう持ちかけられても中国が飛び付ける訳ではない。しかし、米中両国が本気で軍事オプションの検討・調整を始めれば、在韓米軍撤収は必ず俎上に乗せられ、「北朝鮮=緩衝地帯」論の前提を大きく変えるだろう。共同作戦が成功すれば、THAAD配備も抜本的に見直されるだろう。

2.「膨大な難民の発生・流入のリスク」論について

人民解放軍はこの春から中朝国境付近に多数の兵力・装備を展開していると言われる(それも忠誠度に不安のある「元瀋陽軍区以外から」という)。既に、「有事には国境地帯に難民キャンプ多数を設ける一方、人間の出入りを厳重に管理する」作戦を立案済みとも聞く。人民解放軍は、いまや物量とハイテクで高度に装備された軍隊だから、やれない話ではなかろう。

3.「北朝鮮で困った米国が中国に懇願する現状は中国にとって有利」論について

たしかにメリットはある。とくに「ディールの名人」気取りのトランプが貿易交渉やら南シナ海問題やらを何でも北朝鮮問題と絡めたがる結果、米国の対中外交が「背骨(原理原則)のない軟体動物」化しそうになっている現状ではなおさらだ。

しかし、北朝鮮に米国を振り回させて米国が中国に懇願するよう仕向ける作戦は「せこい」し、モンスターを野放しにするリスクも高まる。「中華民族の偉大な復興」を目指す習近平は、もっとスケール大きく考えるのではないか。