動作解析の第一人者も太鼓判! かくて中村奨成は「出現」した…

時代を超越した普遍的な強打者
上田 哲之 プロフィール

半端ではないスイング

少し、プロ野球についても触れておきたい。プロ野球もまた、見る者にとって、出現の魅力を待ちわびるものである。なぜならば、出現とは、時代の趨勢とはなにほどか質の異なる、独自の魅力を放つ者の謂だから。

今季の「出現する者たち」をふり返ると、まず楽天の茂木栄五郎、カルロス・ペゲーロという1、2番が出現した。

従来の日本野球の常識に異を唱える、実に見ごたえのある1、2番だった。

次いで出現したのは、福岡ソフトバンクの捕手、甲斐拓也だろうか。身長170センチという小柄な捕手ながら、その強肩と身のこなしには、実にキレがある。

そして、実は今、出現しかけているのが西川龍馬(広島)ではないか。細身の左打者ながら、スイングは半端ではない。

 

象徴的なのは8月12日の巨人-広島戦。巨人の先発はエース・菅野智之。

2回裏だった。西川は先頭打者で打席に入る。

(1)スライダー ストライク 見逃し
(2)インハイに144キロのストレート

これを、ものの見事にライトスタンドに運んだのが、ややシュートして、インコースのボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる軌道だった。彼は両手をうまくたたんで、芯でとらえて押しこんだ。

ここでも中村同様、左ヒジ(西川は左打者、中村は右打者。中村の右ヒジに相当する)のたたみ方が素晴らしい。体側にねばりつくように、スイングとともに回っていって、インパクトでボールを押しこんでいる。試合も、このソロによる1点が決勝点となり、広島は1-0の勝利。

くせ者出現! と言いたくもなるでしょう。

大谷翔平の不在

最後に、大谷翔平の不在にもふれておく。出現の反対語としての不在である。まず、打者としては出場していたから不在ではない、という反論があるかもしれない。大谷は、二刀流で出場してはじめて大谷という稀有な存在である、と再反論しておく。

ご承知のように、8月31日のソフトバンク戦で、彼は今季2度目の先発登板を果たした。3回1/3投げて4失点だが、この際、結果は問わない。

大谷の剛速球を生み出す1つのカギとして、しばしば指摘されるのが、踏み出した左足を、リリースの瞬間にグイッと引く動きがあることである。これが、ボールにさらなる推進力を与えるという。

この日、立ち上がりから、たしかに154キロ、156キロと、快速球を投げ込んでいた。しかし、左足を引く動きは見られなかった。踏み出した左足は着地したらその位置のままで、リリースした右腕が振られてゆき、次いで、右足が着地する。明らかに、すーっと投げているのだ(それが足首の故障と関係あるのかどうかは知らない)。

ただし、全球そうだったのではない。何球か、グイッと左足を引いたボールがあった。まずは、1回表に、160キロを記録したとき。1回はこのボールだけ、左足を引いた。あとは、柳田悠岐に対したとき。2回表、柳田にカウント3-1になってからのストレートは、少し引く動きがあった(157キロ、ボール)。

4回の失点のシーンも、1死二塁で柳田を迎えたときに、2球、引く動きが出て、160キロを投げている。しかし、決定的な3ランを打たれた福田秀平の打席では、この動きはなかった。

邪推すれば、ようするに、リーグを代表する強打者・柳田には思わず力を入れたけれども、それ以外の状況ではすーっと投げる。現状はまだ、そういうコンディションだということではなかろうか。

これで、本当に、来季からメジャーに行くのだろうか。もう1年、日本でやって、ストレートは全球、思い切りぐいっと引けるくらいの(去年のいま頃はそうだった)状態に戻してからにしたほうが、アメリカでも成功しやすいのではないかと、老婆心ながら思います。

今季、日本野球は「大谷翔平の不在」という、きわめて大きな不在の中で行われてきた。そこにまず清宮幸太郎が存在感を示し、中村奨成が出現した。あるいは茂木栄五郎や甲斐拓也や西川龍馬が出現した。出現は、ひとつの救いなのだ。

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