菊池雄星の二段モーション問題で思い出される「あの投手」の投球法

まるでゴリラ
二宮 清純 プロフィール

今なら間違いなく反則球

話は古くなりますが、スピードガンが登場する前、恐ろしく速いボールを投げたピッチャーがいました。“怪童”と呼ばれた元東映の尾崎行雄さんです。

これまで数多くのプロ野球選手、関係者に「誰のボールが一番速かったか?」と聞きましたが、最も多かったのが尾崎さんです。

昨年他界した元西鉄の強打者・豊田泰光さんは、こう言いました。

「なにしろ速くて、尾崎が投球モーションに入ったらすぐバットを始動(バックスイング)しないとダメだった。それでもバットの上をボールが通りぬけていく。どうすればよいか。これはバットを短く持つしか方法はないわけです。しかし、たかが18歳の少年相手に、そんなことができますか。私は最後までプライドを守りましたよ。腹の中は悔しさで煮えくり返っとったけどね(笑)」

 

生前、自らのスピードボールについて尾崎さんに話を聞きました。

「投げようと思えば160キロ出せたと思います。ただ僕が思うには、ピッチャーというのは完投しなければなりません。1試合に120球投げるとしたら、数球の160キロよりも140キロを110球投げる方が抑えられると思います。

実際に僕もそのように投げていたし、キャッチャーの構えたところに全力投球していましたからね。それとストレートがナチュラルに変化するクセ球だったから、打者にとってはやっかいだったと思います」

ところで尾崎さんと言えば、思い出すのがロッキング・モーションです。投げる前に上体を大きく反らし、腕を上下に振り下ろすのです。まるで戦闘前のゴリラのドラミングのようでした。子供の頃、よく真似したものです。
 
あれは今なら間違いなく「反則投球」でしょう。しかし、当時は何のお咎めもありませんでした。牧歌的な時代と言われればそれまでですが、独自のパフォーンマンスの直後に飛び出す目にもとまらぬ剛速球は、昭和の野球における最上のエンターテインメントでもありました。